この発見に伴い、北海道初の近代炭鉱となる「幌内炭鉱」が設置され、また、採掘された石炭を輸送するため、北海道初の鉄道となる「幌内鉄道」が敷設されました。 さらには、石炭を採掘するため、空知集治監と呼ばれる刑務所も設置され、道内では唯一、囚人が炭鉱労働に使役された場所でもあります。今も、これらの歴史を知ることができるサイトは数多く残されており、当地の近代史は、全ては明治元年の「石炭」の発見によって築かれたものであると言えます。
現在も数多く残る近代史遺産サイト
(上)旧幾春別炭鉱錦立坑櫓、(左)幌内廃線、(右)空知集治監典獄官舎レンガ煙突
一方、約1億年前のアンモナイトをはじめとする太古の生命の歴史に関する研究も、実は明治元年の「石炭」の発見と密接に関わっています。それは、石炭が発見されたことに伴い、幌内地区の炭層をはじめとする未開の蝦夷地に眠る地下資源調査が明治6(1873)年から行われたことによります。
この調査を担ったのが、開拓使(北海道開拓のために置かれた官庁)が米国から招いたベンジャミン・スミス・ライマン(1835-1920)です。ライマンは北海道を3年にわたって調査し、その総まとめとして「日本蝦夷地質要略之図」を明治9(1876)年に表しました。これは、200万分の1の北海道地質図で、総合的な地質図としては日本で最初のものです。なお、この地質図が作成された5月10日は、現在「地質の日」として制定されています。
さらに、明治11(1878)年には、「日本蝦夷地質要略之図」の説明書ともいうべき「北海道地質総論」が刊行されました。実はこの論文の中に、炭層調査の折に約1億年前の白亜紀のアンモナイトが発見されたことが記述されています。
なぜ、ライマンは5000万年前の石炭層を調査していて、1億年前のアンモナイト化石を発見したのでしょうか?これには、三笠周辺の地質の特徴が深く関わっていると考えられます。
三笠周辺では、約5000万年前の石炭を含む地層の隣に、約1億年前のアンモナイトを含む地層が分布しています。ふつう地層は、古いものから新しいものへと連続して作られるものなので、1億年前の地層の上に5000万年前の地層が接することはありません。
ひとまたぎ5千万年(野外博物館エリア)
石炭の産出する5000万年前の地層とアンモナイトの産出する1億年前の地層が隣り合わせに分布している
これは、本来あるはずの5000万年分の地層が、1億年前から5000万年前の間に一度大地が陸化したことによって、浸食で削られてしまったためであると考えられます。
さらに、この付近の地層はほぼ垂直に立っています。地層は、主に川や海などの水の中で砂や泥がつもって形成されますが、その時はほぼ水平です。しかし、大地は少しずつ動いており、これはその動きによって垂直になるまで地層が押し曲げられてできたものなのです。
垂直な地層(野外博物館エリア)
しかも、垂直になるまで地層が押し曲げられた原因は、北海道の西側の大地(ユーラシアプレート)と東側の大地(北米プレート)の2つの大地が衝突し押された結果です(この衝突によって大地がめくれあがったのが日高山脈)。
このような垂直な地層がこの付近では分布しているため、5000万年前の石炭層を調査していても、ほんのひとまたぎで1億年前の地層を観察することができます。だから、ライマンは炭層調査の折にアンモナイト化石を発見したのだと考えられます。
ライマンによる調査の後、北海道におけるアンモナイト研究が積極的に進められるようになり、現在では三笠は世界的にも有名なアンモナイトの産地として知られています。
このような垂直な地層がこの付近では分布しているため、5000万年前の石炭層を調査していても、ほんのひとまたぎで1億年前の地層を観察することができます。だから、ライマンは炭層調査の折にアンモナイト化石を発見したのだと考えられます。
ライマンによる調査の後、北海道におけるアンモナイト研究が積極的に進められるようになり、現在では三笠は世界的にも有名なアンモナイトの産地として知られています。
三笠市立博物館
アンモナイトをはじめとした1億年前の生命史に関する研究と資料は長年博物館に蓄積され、展示等に活用されている
したがって、当地におけるアンモナイトをはじめとする1億年前の生命の歴史に関する研究も、実は「石炭」の発見がきっかけであり、そもそもライマンがアンモナイトを発見したのは、北海道という大地が形成された歴史と密接に関わっていたと言えます。
このように、三笠ジオパークでは、アンモナイトが海を泳いでいた1億年前から、炭鉱まちとして栄えた現代まで、一億年時間旅行を気軽に楽しむことができる場所となっています。そして、この1億年の歴史を結びつけたものこそが、この地で発見された「石炭」だったと言えます。
このことから、当ジオパークにおけるテーマを「さあ、行こう!一億年時間旅行へ〜石炭が紡ぐ大地と人々の物語」としました。