当館職員による異常巻アンモナイトの研究論文が専門誌に掲載されます
突然ですが、A種とB種、このふたつのヘンテコなアンモナイト(異常巻アンモナイト)は、互いにどのような関係性にあると思いますか?
どうやら、A種はB種のご先祖さまである可能性が高く、A種が進化してB種になったらしいのです!
この新たな説を提案した当館による研究論文が、3名の専門家による審査を経て、日本古生物学会が発行する専門誌「Paleontological Research」に掲載されることが決定しました。
受理された論文は6/5より日本古生物学会のWEBページ上で公開されています。(http://www.palaeo-soc-japan.jp/publications/pr/online-early/)
ここで、論文著者の相場が研究成果のポイントをご紹介したいと思います。
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最初にお見せしたA種とB種はどちらも「ハイファントセラス」と呼ばれる異常巻アンモナイトのなかまで、表面に突起がある螺旋階段のような殻が特徴的です。
A種は、「ハイファントセラス・トランジトリウム(Hyphantoceras transitorium)」という種類です。この種は1977年に三笠産の1個体のみが報告されていた種で、最初に報告されて以来これまで追加報告はありませんでした。B種は、「ハイファントセラス・オリエンターレ(Hyphantoceras orientale)」と呼ばれる種類です。1904年に最初に発見されて以来、これまでにも多くの報告がある、比較的よく見つかる異常巻アンモナイトです。これら2種は螺旋状の殻の形が大きく異なり、「(B)オリエンターレ」は「(A)トランジトリウム」に比べて、縦に伸ばしたような形をしています(最初の画像参照)。「(A)トランジトリウム」は上で述べたように、これまで1個体しか見つかっていないことから、個体差(種内変異)や、正確な生息年代幅がよくわからず、他のハイファントセラスとの系統的な関係性もよくわかっていませんでした。
そんな中、2012年~2016年まで苫前町で行った野外調査で、中生代白亜紀サントニアン期(およそ8630万~8360万年前)の地層から7個体の「ハイファントセラス」化石を採集しました。国立科学博物館の所蔵標本などとの比較の結果、これらは、1977年の1個体目以来報告がなかった「(A)トランジトリウム」であることがわかりました。
その後、過去に小平町で採集され、当館収蔵庫に保管されていた資料中から、この種に同定できる個体を1個体を発見し、2017年には中川町エコミュージアムセンターに保管されている苫前町産の2個体を確認しました(図1)。
「(A)トランジトリウム」が報告されるのは41年ぶり、世界で2例目となります。
図1:三笠市、苫前町、小平町、中川町の位置。濃い灰色に塗られた部分は、中生代白亜紀の地層「蝦夷層群(えぞそうぐん)」の分布域。
野外調査で採集された標本は、いずれも地層から直接産出したものだったので、産出時代や、他の種との生息年代の前後関係などを調べることができました。この調査では「(A)トランジトリウム」の他に、多数の「(B)オリエンターレ」も得られたので、これらを生息年代と殻の特徴、2つの視点から比較をしてみました。
①まず、生息年代に注目すると、すべての「(A)トランジトリウム」は「(B)オリエンターレ」よりも古い時代に生息していたことがわかりました(図2)。
②次に殻の特徴に注目してみます。2種の殻の伸び具合の違いにはひとまず目をつむり、殻表面のシワや突起の特徴を比較すると、これらはほとんど見分けがつかなく、非常によく似ているということがわかりました。
図2:苫前町古丹別川上流域で作成した地層の模式図と化石の産出時代。
上で述べたように、「(A)トランジトリウム」は「(B)オリエンターレ」よりも古い時代の地層から見つかったこと、および殻表面の特徴がよく似ていたことから、「(A)トランジトリウム」から「(B)オリエンターレ」に進化した可能性が非常に高いという結論が導き出されました(図3)。
さらに、この説を裏付けるように、「(A)トランジトリウム」の中でも、もっとも新しい時代の地層から見つかった個体の殻はわずかに伸びたような形をしていて、その直後に出現する「(B)オリエンターレ」の形に比較的近いということもわかりました(図2、3)。
図3:今回予測されたハイファントセラスの進化。殻が次第に伸びていくような現象があったことが推定される。
さらに、どちらも北海道とサハリンからしか見つかっていない、いわばガラパゴス種なので、この進化は現在の北海道付近(北西太平洋地域)で起きたのではないか、ということも予想されました。
今回、2種のハイファントセラスの進化の歴史が新たに推定されましたが、北海道やサハリンからは、あと3種のハイファントセラスが報告されていて、それらとの関係も気になるところです。
これを明らかにするのは今後の課題としたいと思います。
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論文で書かれた内容はここまでです。このように、ひとつひとつの種に向かい合ってみると、それぞれがもつ様々なストーリーが徐々に明らかになってきます。これからもアンモナイトに隠された、大昔の北海道の謎を明かしていきたいと思います。
余談ですが、この研究をしてみて、疑問に思ったことがあります。それは、「なぜ、このような形に進化をしたのか?」ということです。ひねって伸ばしたバネのような「(B)オリエンターレ」の形は、現在の生き物と比べて明らかに異質で、奇妙なものです。こんなヒョロ長い殻を背負っていたら生きていく上で不便でしょうがなかったのではないかと思います。一体、このような奇妙奇天烈な形の殻がどのような場面において有利だったのでしょうか?これが一番知りたいことなのですが、一番わからないことです。
「なぜか?」は、今後考えていきたいと思います。
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論文で報告された標本は、6月12日より、当館の化石展示室の異常巻アンモナイトのコーナーで展示しています。ぜひ、探してみてください。
[論文の情報]
タイトル:A possible phylogenetic relationship of two species of Hyphantoceras (Ammonoidea: Nostoceratidae) in the Cretaceous Yezo Group, northern Japan(北日本の白亜系、蝦夷層群から産出するハイファントセラス属2種において考えられる系統関係)
著者:Daisuke AIBA(相場 大佑 三笠市立博物館)
雑誌名:Paleontological Research (日本古生物学会欧文誌;掲載号、頁は未定)
[問い合わせ先]
三笠市立博物館 主任研究員・学芸員 相場 大佑(博士;古生物学)
TEL: 01267-6-7545 FAX: 01267-6-8455 E-mail: aiba698@city.mikasa.hokkaido.jp
[その他]
記事などにおいて画像を転載する場合は三笠市立博物館提供であることを明記してください。