[プレスリリース]北海道羽幌町より新種の異常巻きアンモナイトを発見
当館研究員らが道内羽幌町より新種のアンモナイトを発見し、国際論文誌で発表しました。新種のアンモナイトは、いわゆる異常巻きアンモナイト類で、
「Yezoceras elegans(エゾセラス・エレガンス)」と命名されました。
図1:新種エゾセラス・エレガンスの基準となるホロタイプ標本
[研究成果のポイント]
●白亜紀コニアシアン期(約8980~8630万年前)の地層から新種の異常巻きアンモナイトを発見し、エゾセラス・エレガンス (Yezoceras elegans) と命名した。
●新種エゾセラス・エレガンスは同属の別種エゾセラス・ノドサム (Yezoceras nodosum) より派生したものと考えられる。
●今回の新種を含めた3種のエゾセラス属はいずれも北海道内の白亜紀コニアシアン期からの産出である。この事から、エゾセラス属はこの地域に固有であり、短期間で独自に種分化したものと思われる。
●エゾセラス属の新種が見つかるのは、1977年以来、44年ぶりである。
[博物館での展示]
新種の化石は2月2日~3月28日まで開催のミニ企画展「新種発見!エゾセラス・エレガンスと異常巻きアンモナイトの最新研究」内で展示します。
[博物館での展示]
新種の化石は2月2日~3月28日まで開催のミニ企画展「新種発見!エゾセラス・エレガンスと異常巻きアンモナイトの最新研究」内で展示します。
※三笠市立博物館は1月12日~29日まで、工事のため休館になりますのでご注意ください。
[論文の情報]
論文名: A new species of Yezoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) from the Coniacian in the northwestern Pacific realm [邦訳:北西太平洋地域コニアシアン階よりエゾセラス属(アンモナイト目、ノストセラス科)の1新種]
論文著者: Daisuke AIBA (相場 大佑;三笠市立博物館 *責任著者), Tomoki KARASAWA (唐沢與希;三笠市立博物館), Tetsuro IWASAKI (岩崎 哲郎;横浜国立大学大学院)
掲載雑誌: Paleontological Research, vol. 25, no. 1, p. 1‒10(日本古生物学会欧文誌パレオントロジカル・リサーチ、第25号、第1集、1‒10頁)
[お問い合わせ先]
三笠市立博物館 主任研究員・学芸員 相場 大佑(あいば だいすけ)
TEL:01267-6-7545 FAX:01267-6-8455
E-mail:aiba698@city.mikasa.hokkaido.jp
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[研究成果の概要]
北海道羽幌町の中生代白亜紀コニアシアン期(約8980~8630万年前)の地層から採集された8点のアンモナイト類の化石標本が新種であることがわかりました(図1、図2、図3)。研究は、相場 大佑・唐沢 與希(三笠市立博物館)・岩崎 哲郎(横浜国立大学大学院)により行われました。研究論文は、複数名の専門家による審査を経た後、日本古生物学会欧文誌 パレオントロジカル・リサーチ (Paleontological Research)2021年1月1日発行号に掲載され、エゾセラス・エレガンス (Yezoceras elegans) が正式に発表されました。
図3: 新種エゾセラス・エレガンス (Yezoceras elegans) として論文中で記載された8点の標本。すべて三笠市立博物館所蔵。
エゾセラス属 (Yezoceras)は、中生代白亜紀コニアシアン期(約8980~8630万年前)に生息していた、殻表面に複数列の突起をもつ巻貝のような形をした、いわゆる「異常巻きアンモナイト」です。エゾセラス属はこれまでに1977年に発見された2種が知られていました。今回発見された8つの標本は、互いに接することがなく大回りに緩やかにカーブしたバネ状の螺環と、螺環下部に集中している2列の突起が特徴で、これらの特徴は既存種の特徴と異なっています(図4)。そのため、これらの標本をエゾセラス属3種目の新種と考え、学術論文上で発表しました。エゾセラス属の新種が見つかったのは1977年以来、44年ぶりのことです。
図4: 今回発見された新種と、1977年に発見された既存2種との比較
エゾセラス属3種の中で、エゾセラス・ノドサム (Yezocera nodosum) が最も古い時代から出現し、続いて、新種エゾセラス・エレガンス (Yezoceras elegans) が登場することがわかました(図5)。このことから、新種はノドサム種から派生した可能性が高いことが推定されました。なお、もっとも新しい時代から産出する傾向があるエゾセラス・ミオチュバキュラータム(Yezocera miotuberculatum) が、ノドサム種から直接生じたのか、新種エゾセラス・エレガンスを経由して生じたものかは現時点では明らかではありません。
図5: 新種を含むエゾセラス3種の産出順。
現時点で、エゾセラス属3種はいずれも北海道内からのみ発見されています。このことから、エゾセラス属は北西太平洋地域に固有であった可能性が高く、コニアシアン期(約350万年間)に、この地域内で独自に種分化したものと考えられます。
エゾセラス属以外にも、北西太平洋地域の同時代の異常巻きアンモナイト類は、なぜか固有種が多い一方で、正常巻きのアンモナイト類には汎世界的な分布をするものが多く知られています。当時の海洋がどのような環境下にあり、このような違いがなぜ起きたのかは謎に包まれています。エゾセラス属をはじめとして、異常巻きアンモナイト類の各系統の進化の傾向や環変動との関係性をひとつひとつ明らかにしていくことで、その理解に近づくかもしれません。
図6: 新種エゾセラス・エレガンス(Yezoceras elegans)の生態復元画。
[学名の由来]
新種の学名エゾセラス・エレガンス (Yezoceras elegans) は、ラテン語で「蝦夷地の優雅なアンモナイト」の意味。エゾ Yezo (=蝦夷地;北海道の旧呼称)+セラス ceras (=角 ※アンモナイトの学名に一般的に用いられる接尾語)+エレガンス elegans (=優雅な、上品な)。
[発見の経緯]
横浜国立大学大学院修士課程に在籍していた岩崎哲郎氏(2018年修了;指導教員 和仁良二)が、2015年から2017年にかけて北海道羽幌町で行った野外調査において、正体不明の異常巻きアンモナイト類化石2点を採集しました。2018年の初頭、相場大佑(三笠市立博物館)が横浜国立大学を訪問した際に該当標本を観察し、新種である可能性を指摘、それら2標本は三笠市立博物館に寄贈されることになりました。
産出地点の情報を頼りに、2018年の夏に相場と唐沢與希(同館)が羽幌町に分布する地層の調査を行い、新たに5標本を採集しました。また、別の種として三笠市立博物館に常設展示されていた1標本も新種である可能性が見出され、これら合計8標本と、国立科学博物館や九州大学総合研究博物館に所蔵されている既存種の特徴との違いを分析した結果、これまでに報告されていなかった新種であることが明らかになりました。2019年の4月に報告論文を投稿、複数名の専門家による審査を経て同年11月に受理されました。
[その他]
図1~6を用いる場合は三笠市立博物館提供であることを明記してください。