館長コラム 「こんな化石も展示しています」第12回 ーノジュール-
このコラムは化石の持つ魅力について、当館に展示されている化石を紹介しながら、当館館長が独断と個人の感想を交えて、皆様に楽しくお伝えする連載です。
なお、当館はアンモナイト化石の展示は非常に充実しており、またその解説についても詳しい解説板が展示室に設置されているため、このコラムではアンモナイトは取り上げません(たぶん)。それ以外の、一般の人にはあまり知られていないものの、実は魅力的な様々な古生物達について取り上げて行こうと考えています。
さて、今回は「ノジュール」を取り上げます。ノジュールそのものは化石ではありませんが、ノジュールと呼ばれる硬い石の中には、しばしばとても状態の良い化石が含まれることが知られています。実は北海道のアンモナイトの大半はこのノジュールの中から見つかっています。そこで今回は、ノジュールとはどのようなものか、ということについて紹介いたします。
「ノジュールとは」
ノジュールとは、地層中に含まれた丸みを帯びた硬い岩の名称で、別称として「コンクリーション」、日本語では「団塊」とも言います。ノジュールの中には、時折、大変素晴らしい保存の化石が含まれていることがあります。そうしたことから、ノジュールとは何か、どのようにしてできるのか、ということは古生物学の研究において、古くから注目されてきました。
ノジュールを研究するためには、古生物学・地質学だけではなく、化学的な視点からの研究が必要であることは、古くから気づかれていました。しかし高度な分析機器がまだ一般的でなかったことなどもあり、中々研究は進みませんでした。そうした中、1980年代の終わり頃から、化石のでき方について新しい発想が生まれてきたこと、また、新しい分析機器が容易に使用できるようになったことなどによって、ノジュールの研究は大きく進みました。現在では、微生物学からの観点も含めて盛んに研究が行われています。
ノジュールの外形は、球状やラグビーボール、時に扁平など様々な形をしています。また大きさも直径数十ミクロンから、極端な物では数十メートルと色々なものがありますが。通常目にするのは数cmから数十cm程度のものが大半です。ノジュールは、ノジュールそのものを含んでいる地層よりも硬いのが特徴です。
ノジュールを研究するためには、古生物学・地質学だけではなく、化学的な視点からの研究が必要であることは、古くから気づかれていました。しかし高度な分析機器がまだ一般的でなかったことなどもあり、中々研究は進みませんでした。そうした中、1980年代の終わり頃から、化石のでき方について新しい発想が生まれてきたこと、また、新しい分析機器が容易に使用できるようになったことなどによって、ノジュールの研究は大きく進みました。現在では、微生物学からの観点も含めて盛んに研究が行われています。
ノジュールの外形は、球状やラグビーボール、時に扁平など様々な形をしています。また大きさも直径数十ミクロンから、極端な物では数十メートルと色々なものがありますが。通常目にするのは数cmから数十cm程度のものが大半です。ノジュールは、ノジュールそのものを含んでいる地層よりも硬いのが特徴です。

地層中に含まれているノジュール
ハンマーの左右に見える茶色の球形をしたものがノジュール。ノジュールはそれを含んでいる地層より硬いのが特徴である。この写真では、ノジュール周囲の地層(泥岩)の表面は風化により、細かく砕けているが、ノジュールにはヒビ割れなどは見られない。
地層:幌内層(新生代古第三紀)
撮影場所:三笠市
地層:幌内層(新生代古第三紀)
撮影場所:三笠市
上の写真を見た印象として、ノジュールはまるで、地層が堆積した時に、どこか他所から流されてきた石のように見えるかもしれません。しかし、実際にはそうではなくて、ノジュールは地層が堆積した後に、地層の中で局所的に起きた変化によって生じたものです。ですので、他所からやってきたものではなくて、その場所でノジュールとして形成されたものです。
ノジュールはとても硬いことが多く、割るのにしばしば大変苦労させられます。硬さの理由は、ノジュール中にたくさんの炭酸カルシウムの結晶(方解石;ほうかいせき)が存在し、コンクリートのように岩石を固めているためです。従って、ノジュールができるためは、地層中に局所的な炭酸カルシウムの濃集が起こっている必要があります。
ノジュールの中には、しばしば化石が含まれています。ノジュールはその硬さや密閉性により、中に含まれている化石を保護する役割を果たしているため、素晴らしい保存状態の化石を含むことがあります。
実はノジュールの中に化石が含まれていることは偶然ではありません。ノジュールの形成と、化石のもととなった生物の遺骸の間には密接な関係があるのです。

ヒマラヤ山脈から見つかったノジュールに含まれているアンモナイト
学名:サブプラニテス属の一種
時代:中生代ジュラ紀後期
産地:ネパール
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-A882)収蔵庫に収蔵中
寄贈者:小林信子氏
寄贈者:小林信子氏

ノジュールに含まれた ほぼ完全体の三葉虫
学名:ホーカスピス・ユハライ
時代:古生代オルドビス紀
産地:ボリビア
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K193)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本

ノジュールに含まれたスナモグリのハサミの化石
右端は「スナモグリ」のイメージ図。スナモグリは生物学的にカニに近い生物で、海底に穴を掘って暮らしている。左右どちらかのハサミが巨大になるのが特徴。日本だけでなく世界中で見つかるが、ノジュールに含まれているのはハサミだけで、体本体が含まれていることは、ほとんどない。
学名:カリアナッサ・ホッカイドウエンシス
時代:新生代古第三紀始新世
産地:北海道三笠市
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-A1374 )「7 三笠の化石 」コーナーに展示中
採集者:故 解良正利氏
「ノジュールのでき方」
それではノジュールはどのようにして形成されるのでしょうか。ここでは最も一般的な種類のノジュールで、また北海道ではアンモナイトが含まれている「炭酸塩ノジュール」のでき方について解説します。
炭酸塩ノジュールは、炭酸カルシウム分(CaCO3)が結晶化した鉱物(方解石)によってコンクリートのように固められたノジュールです。実際、コンクリートの主成分はカルシウム(石灰分)ですので、ノジュールは天然のコンクリートとも言えます。
ノジュールが形成される詳しいメカニズムはまだわかっていないことも多いのですが、生物の遺骸の存在と、それを分解する(腐敗させる)バクテリアの活動が、ノジュールの形成に大きく関与していることは間違いないとされています。

学名:カリアナッサ・ホッカイドウエンシス
時代:新生代古第三紀始新世
産地:北海道三笠市
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-A1374 )「7 三笠の化石 」コーナーに展示中
採集者:故 解良正利氏
「ノジュールのでき方」
それではノジュールはどのようにして形成されるのでしょうか。ここでは最も一般的な種類のノジュールで、また北海道ではアンモナイトが含まれている「炭酸塩ノジュール」のでき方について解説します。
炭酸塩ノジュールは、炭酸カルシウム分(CaCO3)が結晶化した鉱物(方解石)によってコンクリートのように固められたノジュールです。実際、コンクリートの主成分はカルシウム(石灰分)ですので、ノジュールは天然のコンクリートとも言えます。
ノジュールが形成される詳しいメカニズムはまだわかっていないことも多いのですが、生物の遺骸の存在と、それを分解する(腐敗させる)バクテリアの活動が、ノジュールの形成に大きく関与していることは間違いないとされています。

炭酸塩ノジュールのでき方
- 海底にアンモナイトの死体が沈み泥に覆われる。
- 泥に覆われたアンモナイトの死体は、酸素から遮断されているため、酸素がなくても活動できる「嫌気性バクテリア」が活動を始め、肉を分解(腐らせる)し始める。
- 嫌気性バクテリアが肉を分解し始めると「重炭酸イオン」が生成される。重炭酸イオンは、海水中にたくさん含まれているカルシウムと結合し易く、死体の周りに炭酸カルシウムを沈澱させ始める(ノジュール形成の始まり)。また、バクテリアの代謝活動により発生する排泄物(アンモニア)は死体の周囲をアルカリ性の環境にし、そのこともカルシウムの沈澱を促進すると考えられている(酸性の環境ではカルシウムが溶けてしまい、沈澱を妨げるため)。
- この反応が継続する間、核となる生物の遺骸を中心として同心円状にノジュールが成長し続ける。さらに長い年月を経ると、沈澱した炭酸カルシウムは、方解石という鉱物に変化し、ノジュールをさらに強固なものにする。
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上で示したように、ノジュールができるためには、まず生物の遺骸(肉など)が必要で、次いでこれを分解する嫌気性バクテリアの活動が必要である、ということになります。ノジュールの中に、しばしば化石が含まれているのは、こうした理由によります。
バクテリアの餌はリアルな肉でなくても有機物であれば良いので、例えば糞や植物片のようなものでも構いません。ノジュールを割ってみると一見、中に何も含まれていないように見えることがよくあります。しかし、実際にはこうしたノジュールの中を詳細に観察すると海底に生息していたゴカイのような小さな生き物の微小な糞の化石がたくさん含まれていることが少なくありません。

微小な糞などの化石を含むノジュールの縦断研磨面
ノジュール内部の構造が見やすいように縦に切断し表面を研磨した標本。断面に、もやもやと見えるのは、海底に生息していたゴカイなどの生物の微小な糞などの化石。もし、このノジュールを普通に割っても、何も化石が入っていないように見えたかもしれない。しかし一見何も入っていなさそうなノジュールにも、このように実は微小な糞や植物片が含まれて、ノジュール形成の原因となっていることも多い。
時代:中生代後期白亜紀コニアシアン
産地:北海道苫前町
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-A 678 )収蔵庫に収蔵中
寄贈者:故 早川浩司氏
ノジュールの大きさについては、餌がなくなってしまうと、バクテリアは活動を停止するので、ノジュールは無限に大きくはなりません。一般論としては餌(有機物)の量が多い(=遺骸が大きい)ほど、バクテリアの活動が継続し、結果として大きなノジュールが形成されます。

野外で観察される大型ノジュール
この大型ノジュール(丸枠内)は長径1m以上もある。バクテリアの餌が豊富なほど、大きなノジュールが形成される。当館で展示されている大型のアンモナイトも、発見時はこのような大きなノジュールに含まれていたものである。
地層:蝦夷層群鹿島層(中生代後期白亜紀)
撮影場所:三笠市桂沢

当館展示室にある北海道産の大小アンモナイトは皆ノジュールに含まれていたものである
ノジュールは、生物の遺骸を覆うようにして形成されるため、しばしば、ノジュールの外形が中に含まれている生物のおおよその輪郭となっていることがあります。こうしたことからも、ノジュールが生物の遺骸を核として形成されていることがよくわかります。

「ノジュール上面」および「ノジュール側面」写真を見ればわかるように、アンモナイトを覆うようにノジュールが形成されているため、ノジュールの外形や厚みはアンモナイトのおおよその輪郭を反映している。同様に、次の写真に示す三葉虫は、アンモナイトに比べて体が薄いため、形成されるノジュールも厚みが薄いものとなっていることがわかる。

「ノジュール上面」写真に示されているように、三葉虫の外周を覆うような形状でノジュールが形成され、また、三葉虫の体の薄さを反映して、厚さの薄いノジュールとなっている。
ノジュールの形成にはバクテリアの働きが大きく関係しているので、ノジュールができる、できないについては、バクテリアの生息と活動に適した環境、すなわち、海底の水深や底質、水温そして酸性度などの物理的・化学的な要因が大きく関係していると考えられます。
実際、地層を観察すると、ノジュールが多く見られる層と、そうではない層があるので、ノジュールのできやすさについては、当時の海底の微妙な環境による違いが大きかったと考えられます。

ノジュールは特定の層に多く見られる
地層:蝦夷層群佐久層(中生代後期白亜紀)
撮影場所:夕張市
また、一般論として、海水中と淡水中で、ノジュールの出来やすさを比較すると、海水中の方が、はるかにノジュールができやすいと考えられます。なぜならばノジュールの形成には水中に溶けているカルシウム分の沈澱が必要ですが、海水には大量にカルシウム分が溶けているのに対して、淡水にはわずかにしか溶けていないからです。
実際には淡水環境で堆積した地層にもノジュールが見られ、魚類や植物の見事な化石が含まれていることがあります。こうしたノジュールはカルシウムではなくて、淡水に多く含まれている鉄が炭酸と結びついてできた別の種類(FeCO3)のノジュールなどからなっている事が多く見られます。実例も含めて、ノジュールのでき方についてはまだ研究が必要なことがたくさんあります。
実際には淡水環境で堆積した地層にもノジュールが見られ、魚類や植物の見事な化石が含まれていることがあります。こうしたノジュールはカルシウムではなくて、淡水に多く含まれている鉄が炭酸と結びついてできた別の種類(FeCO3)のノジュールなどからなっている事が多く見られます。実例も含めて、ノジュールのでき方についてはまだ研究が必要なことがたくさんあります。
「ノジュールは化石をどのように保護しているのか」
ノジュールは、地層中の局所的な炭酸カルシウム分の沈澱によって固化が始まり、最終的には炭酸カルシウム分が方解石という鉱物に変化することによって、緻密で非常に硬い物となります。これにより、中に含まれている化石を物理的・化学的に保護する役割を果たしています。そうした役割の中でも、最も重要な一つが、「地圧」からの保護です。
化石は地層の中に埋まっています。そのため、地下の化石の上に被っている地層が厚くなるほど、化石に地層の重さ(地圧)が大きくのしかかってきます。そうした地圧を受けた場合、化石の周りにノジュールができていない場合と、できている場合とでは、化石の状態に大きな差が生じます。ノジュールができていない場合、化石は潰れてしまいますが、ノジュールができている場合、その硬さにより、地圧がかかっても、中に含まれている化石は潰れません。

地圧から化石を保護するノジュール
ノジュールがどのように地圧から化石を保護しているのか、アンモナイトの横断面模式図を用いて示した。図の上段では、アンモナイトの横断面模式図が実際のアンモナイトのどの断面を表しているのかを示す。下段では、硬いノジュールによりアンモナイトが地圧の影響を免れることを示した。

ノジュールが化石を地圧から保護している実際の例
ここに示した二つの化石はどちらもジュラ紀前期のアンモナイト「ダクティリオセラス」の化石である。上段の写真は化石を斜め上から、下段は真上から見たものである。
左側のノジュールができていない(=ノジュールに含まれていない)ダクティリオセラスは地圧で潰されてほぼ平面になっている。対して右側のノジュールができている(=ノジュールに含まれている;この標本はクリーニングによってノジュール中から掘り出されている)ダクティリオセラスは、元々の立体的な形状を完全に保存している。(左:ドイツ ホルツマーデン産、右:英国 ウィットビー産。どちらも筆者蔵)
左側のノジュールができていない(=ノジュールに含まれていない)ダクティリオセラスは地圧で潰されてほぼ平面になっている。対して右側のノジュールができている(=ノジュールに含まれている;この標本はクリーニングによってノジュール中から掘り出されている)ダクティリオセラスは、元々の立体的な形状を完全に保存している。(左:ドイツ ホルツマーデン産、右:英国 ウィットビー産。どちらも筆者蔵)
次に顕微鏡レベルで、地層やノジュールに地圧がかかるとどのような変化が生じるのかを示します。ここでは「泥」の地層を例に示します。
泥は、肉眼で見ると、ドロドロしているだけですが、顕微鏡で拡大して見ると、細かい粒子の集合体からできています。泥の場合、これらの粒子の形状は球体ではなく、薄い板状をしています(これらは「粘土鉱物」からなり、薄い板状をしているのは、粘土鉱物の結晶の形を反映しています)。
これらの板状鉱物の集合体が泥となっているわけですが、板状鉱物は集まるときに、お互いをふんわりと突っ張り合うようにして集合するので、隙間だらけの集合体となります(下図上段参照)。この隙間(間隙率)は体積に対して、最大80-90%にもなります。つまりスカスカ状態です。なおドロドロの原因となる海水などの水は、この隙間に含まれています。
海底に泥が堆積し続けると、段々と地層が厚くなり、地層の下の方では、上に乗っている泥の地層の重み(圧力)を受けることになります。そうなると、ふんわりと支えあっていた板状鉱物は、潰れます(下図下段左)。潰れると隙間がなくなるので、地層全体の厚みも減少することになります。これが圧力による圧縮の効果です。この時に生物の遺骸(まだ「化石」にはなっていない)にも圧力がかかり、その圧力が遺骸の体が耐えられる以上に達すると、潰れてしまいます。
対して、支え合っている板状鉱物の集合体が、地層の重みで潰れる前にノジュールが形成されると、圧縮は起きません。先に書いたようにノジュールの形成には炭酸カルシウムの沈澱が伴います。この沈澱は、板状鉱物の集合体の隙間に起こるからです。その結果、たくさんある隙間は硬いカルシウム分で充填され、圧力に対抗できるようになります。その結果、圧縮を受けないので、ノジュールとなった部分だけ、もともとの泥の地層の厚さを維持することができ(下図下段右)、中に含まれている生物の遺骸も潰れません。さらに長い時間を経ると、炭酸カルシウム分は次第に硬い方解石という鉱物に変化して、ノジュールの持つ抵抗力を最大限に引き上げます。

ノジュールが地圧で潰れないのは、元々の泥の粒子の間の隙間に炭酸カルシウムが沈澱し、隙間を完全に埋めてしまっているからである。その結果、隙間がないので、圧力を受けても潰れにくくなる。
ノジュールは炭酸カルシウム分の沈澱によって固化が始まりますが、強度的にはそれだけでは完成半ばです。その時点ではまだ大地全体が押されるような、すごい地圧に対抗できる強度はありません。その後、地層中で長い年月を経ると、炭酸カルシウム分は、方解石という透明な結晶を持った鉱物に変化します(成分は炭酸カルシウムそのもの)。方解石の形成によって、ノジュールは緻密な硬い岩として完成し、大きな圧力にも耐えられるようになります。
また、ノジュールの周囲の泥は、さらに何十万年以上もの長い時間をかけて、大きな圧力を加わえられ続けると最終的に泥は岩に変化します(「泥岩」)。
ここでは「泥」を例に示しましたが、「砂」の地層の場合は、泥の地層よりも、元々粒子同士の隙間が小さく、圧力を受けても潰れる余地が少ないので、相対的に泥の地層ほどは潰れません。実際、ノジュールに入っていない化石を比べると、砂岩中に含まれている化石の方が、泥岩中に含まれている化石より、明らかにあまり潰れていません。
圧力の他に、化石に対するノジュールの保護的な役割として、封入効果があります。例えば生物の遺体は他の生物にとっては魅力的な餌となるため、遺体をそのまま放置すると、食い荒らされて破壊されたり、また、食い荒らされなくても、水流で流されてバラバラになったり、海底で自然に風化して破損したりします。
しかし、遺体が損壊する前にノジュールで固められてしまえば、遺体はほとんど破壊されることなく、化石として保存される可能性が高まります。例えば、下の写真に示したカニの化石がそうした例だと考えられます。
また、ノジュールの周囲の泥は、さらに何十万年以上もの長い時間をかけて、大きな圧力を加わえられ続けると最終的に泥は岩に変化します(「泥岩」)。
ここでは「泥」を例に示しましたが、「砂」の地層の場合は、泥の地層よりも、元々粒子同士の隙間が小さく、圧力を受けても潰れる余地が少ないので、相対的に泥の地層ほどは潰れません。実際、ノジュールに入っていない化石を比べると、砂岩中に含まれている化石の方が、泥岩中に含まれている化石より、明らかにあまり潰れていません。
圧力の他に、化石に対するノジュールの保護的な役割として、封入効果があります。例えば生物の遺体は他の生物にとっては魅力的な餌となるため、遺体をそのまま放置すると、食い荒らされて破壊されたり、また、食い荒らされなくても、水流で流されてバラバラになったり、海底で自然に風化して破損したりします。
しかし、遺体が損壊する前にノジュールで固められてしまえば、遺体はほとんど破壊されることなく、化石として保存される可能性が高まります。例えば、下の写真に示したカニの化石がそうした例だと考えられます。

ノジュール中に含まれたカニの化石
この標本は、カニの元々の状態・形をほぼ完全に残していることから、死後に死体が損壊することなく、急速にノジュール化したことが推定される。
学名:アーケオプス・エゾエンシス
時代:中生代後期白亜紀カンパニアン
産地:北海道平取町
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-M181)「6 蝦夷層群とさまざまな化石」コーナーに展示中
他の例として、下に示した魚の化石は頭部から尾まで、背びれや胸びれも含めて、もともとの体の位置から動くことなく完全な状態で化石になっています。これらのことから、この魚の遺体は全く手付かずの状態でノジュールに封じ込められたことが推定されます。
こうした例などから、ノジュールの形成は、生物の死後、とても短時間で起きている可能性が示されています。
産地:北海道平取町
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-M181)「6 蝦夷層群とさまざまな化石」コーナーに展示中
他の例として、下に示した魚の化石は頭部から尾まで、背びれや胸びれも含めて、もともとの体の位置から動くことなく完全な状態で化石になっています。これらのことから、この魚の遺体は全く手付かずの状態でノジュールに封じ込められたことが推定されます。
こうした例などから、ノジュールの形成は、生物の死後、とても短時間で起きている可能性が示されています。

ノジュールに含まれた魚の化石
右側が頭側。魚の化石を覆って細長くノジュールが形成されていることがわかる。ノジュールに含まれていても、魚は殻などを持たず、もともと体が柔らかいので、二次元的に圧縮されていることが多い。
学名:マロトゥス・ヴィロスス
時代:新生代第四紀
産地:カナダ オンタリオ州
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K258)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
定規の目盛は1cm
購入標本
定規の目盛は1cm
さらに、ノジュールは化石を侵食などからも保護しています。北海道では、河原の砂州などに落ちているノジュールからアンモナイト採集をすることが一般的です。河原に落ちているノジュールは、もともと地層に含まれていたものです。川の侵食によって地層が削られることによってノジュールが自然に掘り出され、やがて川に落ち、流されたものが砂州に溜まっているのです。
もしノジュールが硬くなければ、地層が川に侵食されている時に地層と一緒に削られて無くなってしまいますし、また川に流されている間にも、他の石などとぶつかった時に割れてしまうことでしょう。
こうした物理的な破壊に対しても強い抵抗力があることもノジュールの特徴であり、また北海道でたくさんアンモナイトの化石が発見される大きな理由の一つとなっています。

白亜紀層の露頭表面に観察されるノジュール(写真中央)
地層:蝦夷層群鹿島層(中生代後期白亜紀)
撮影場所:三笠市桂沢
ノジュールは露頭から半分飛び出したような状態を示している。ノジュールは、それを含んでいる地層よりも硬くて風化に強いため、周囲の地層が侵食を受けて削れてしまっても、ノジュールだけが残される。そのため露頭表面から飛び出して見える。ノジュール周囲の地層の侵食がさらに進むと、やがてノジュールは地層から川へ転がり落ち、流されて砂州などに溜まることになる。
北海道ではアンモナイトの化石はノジュールに含まれていますので、アンモナイト探し、イコール、ノジュール探しをするということです。つまり「アンモナイト探しが上手い人」というのは「アンモナイトが入っているノジュールを探すのが上手い人」ということになります。

ノジュールに含まれた北海道産アンモナイト
学名:パキディスクス・グラシリス
時代:中生代後期白亜紀マーストリヒチアン
産地:北海道むかわ町
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-A524)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
寄贈者:伊藤文人氏
寄贈者:伊藤文人氏
ノジュールはとても硬いので、子供くらいの力では容易に割ることはできません。また、ノジュールには、化石を含む向きがあるので、その向きを無視して割ると、割れにくい上に化石を壊してしまいます。
当館の化石展示室にある日本最大級の直径1.3mのアンモナイトを始め、展示室にずらりと並んだアンモナイトは小さいものから大きいものまで、ほとんどがノジュールから見つかったものなのです。
当館の化石展示室にある日本最大級の直径1.3mのアンモナイトを始め、展示室にずらりと並んだアンモナイトは小さいものから大きいものまで、ほとんどがノジュールから見つかったものなのです。

アンモナイトを多数含むノジュール
上写真の黄色枠を拡大したものが下写真。様々な角度のアンモナイトの断面がノジュールの表面に見えている。
産地:三笠市桂沢
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号なし)「6 蝦夷層群の様々な化石」コーナーに展示中
「ノジュール形成にかかる時間」
ノジュールは、実はかなり短い時間で形成されたと考えられています。先に、地圧とノジュールの関係で見てきたように、どんなに遅くても、地圧がかかるよりは早くノジュールが形成されていないと、遺骸が潰されてしまいます。例え、数cm埋まっただけでも、少なからず地圧がかかっていることを考えても、遺体が泥に覆われてからかなり早い時期にノジュールの形成が始まらなければなりません。また、先にカニの化石の例で示したように、遺体が死後の損傷を受けていないということは、遺体が壊されるよりも早くノジュールができ始める必要もあります。
こうしたことから、ノジュールは生物の死後かなり早い時期、それもノジュールの周りの地層がまだ柔らかい時に、ノジュールとなる部分だけは硬くなっていたと考えられます。
どれくらいの時間でノジュールが形成されるか、色々な説があるのですが、具体的な数字が、最近行われたツノガイと呼ばれる貝類の化石を含んだ直径2cmほどのノジュールを用いた研究で発表されています。その研究によるとノジュールが2mm成長するのに、数日から数週間程度とされ、そのことから、直径2cmに達するまでは、数週間から最大でも2〜3ヶ月程度だったと見積もられています。
もちろん大きいノジュールになるとさらに時間がかかることが予測されますが、いずれにしても、短くても数万年単位で時間を扱う地質学的なスケールと比較すると、ほぼ「一瞬」でノジュールが形成されていることは確かなようです。

大きなノジュールも「ごく短時間」で形成されるらしい
さておき、ノジュールに含まれている化石の保存が良いといっても、一般的には殻や骨が残されているだけで、肉など体の柔らかい部分は残されていません。ただし、ごく稀に、筋肉などの組織が化石としてノジュール中に残されていることがあります。
世界でもそうした例は稀なのですが、たくさん見つかる場所もあります。そのような場所の一つが「サンタナ層」と呼ばれる中生代前期白亜紀の地層が分布するブラジル・セアラ州です。サンタナ層からは、とても保存の良い魚の化石が多数見つかることで世界的にとても有名です。
サンタナ層のノジュールから見つかる魚化石は、体が潰れずに立体的に保存されているのが特徴です。さらに化石を電子顕微鏡で調べたところ、筋肉や内臓など本来化石にはならないような柔らかい組織も化石化している事がわかりました。

サンタナ層から採集されたノジュールに含まれた魚(硬鱗魚)の化石
この標本は、鱗まで保存されており、また潰れずに立体的に保存されている。標本の向きとして、背中側にのけぞった魚を右側面から見た状態を示している。さらに頭部は右側に90度近くねじれたため、下顎の腹側(裏)が見えている。また頭部がねじれた影響からか、鰓蓋が飛び出している。
学名:ビンクティファーの一種
時代:中生代前期白亜紀
産地:ブラジル セアラ州
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K243)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
普通は腐ってしまうような柔らかい組織が化石となっているということは、これらの組織が腐るよりも早く化石化しているということを意味しています。実験室で実際に魚を腐らせて実験したところ、死後数時間にも満たない速さで組織が腐り始める事がわかりました。このことから推定するとサンタナ層の魚化石は、魚の死後数時間以内という、驚くほどとても短い時間でノジュール化が始まっていた、ということになります。
難しい話になるので、ちょっとだけ書きますが、サンタナ層の魚化石の肉組織の保存は、嫌気性バクテリアと、その働きによるリン酸カルシウムの沈澱が関係しているとされています。サンタナ層のみならず世界的にも肉組織の化石はリン酸カルシウムの沈澱で保存されており、炭酸カルシウムで保存されていることはないそうです。ただしサンタナ層の魚ノジュール全体は炭酸カルシウムからなるので、ノジュール形成中にリン酸カルシウムの沈澱から炭酸カルシウムの沈澱へと変化があったことになります。さらにリン酸カルシウムは酸性環境で沈澱しやすいのに対し、炭酸カルシウムはアルカリ性環境で沈澱します。この相反する沈澱環境はノジュールの形成中に化学的な環境変化があったことを示します。等等、サンタナ層の魚化石はノジュールの形成過程を研究するのに、大変興味深い事例とされています。
時代:中生代前期白亜紀
産地:ブラジル セアラ州
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K243)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
普通は腐ってしまうような柔らかい組織が化石となっているということは、これらの組織が腐るよりも早く化石化しているということを意味しています。実験室で実際に魚を腐らせて実験したところ、死後数時間にも満たない速さで組織が腐り始める事がわかりました。このことから推定するとサンタナ層の魚化石は、魚の死後数時間以内という、驚くほどとても短い時間でノジュール化が始まっていた、ということになります。
難しい話になるので、ちょっとだけ書きますが、サンタナ層の魚化石の肉組織の保存は、嫌気性バクテリアと、その働きによるリン酸カルシウムの沈澱が関係しているとされています。サンタナ層のみならず世界的にも肉組織の化石はリン酸カルシウムの沈澱で保存されており、炭酸カルシウムで保存されていることはないそうです。ただしサンタナ層の魚ノジュール全体は炭酸カルシウムからなるので、ノジュール形成中にリン酸カルシウムの沈澱から炭酸カルシウムの沈澱へと変化があったことになります。さらにリン酸カルシウムは酸性環境で沈澱しやすいのに対し、炭酸カルシウムはアルカリ性環境で沈澱します。この相反する沈澱環境はノジュールの形成中に化学的な環境変化があったことを示します。等等、サンタナ層の魚化石はノジュールの形成過程を研究するのに、大変興味深い事例とされています。
以上ノジュールについて解説を行ってきましたが、化石となった生物は、すでに絶滅してしまった生物である事も多く、断片的であることが多い化石からは、その生物の姿や暮らしがよくわからない事もよくあります。そうした中で、ノジュールに含まれている保存の良い化石は、その生物を知る上でとても多くの情報をもたらします。ノジュールは古生物学の研究をする上で、過去を覗くための「窓」として重要な役割を果たしていると言えます。ただ、ノジュールそのものについても、まだわかっていないことも多く、今後も多くの研究がなされ、その謎が解明されることが期待されます。
(ノジュールの項終わり)
余 談:「ノジュール簡単に割れちゃうのですね....」
本編で書いたようにノジュールからは良い化石が見つかることが多いので、ありがたいのですが、困るのはしばしばとても硬いことです。ノジュールを割るのに通常サイズのハンマーでは歯が立たないので、頭の重さが5kg近くあるハンマー(いわゆる「大割り」)を使って割ることもしばしばあります。
(ノジュールの項終わり)
余 談:「ノジュール簡単に割れちゃうのですね....」
本編で書いたようにノジュールからは良い化石が見つかることが多いので、ありがたいのですが、困るのはしばしばとても硬いことです。ノジュールを割るのに通常サイズのハンマーでは歯が立たないので、頭の重さが5kg近くあるハンマー(いわゆる「大割り」)を使って割ることもしばしばあります。

「大割り」ハンマー
ただ、そのような大きなハンマーを使っても中々割れないことも普通で、割るのに苦労するのはもちろん、割っている最中、顔に向かってノジュールの尖った破片が飛んでくることに悩まされます。破片のせいで顔に切り傷を作るのはしょっちゅうですし、高速で飛翔する大きな破片が「ブン!」という鈍い音を立てながら耳元を掠めて行った時にはヒヤッとします。
以前、大きな破片がメガネを直撃してガラスレンズを粉々にされたことがあります。また、下世話なエピソードで恐縮ですが、立膝をついてノジュールを割っていたところ、股間を大きな破片が直撃して悶絶したこともあります。

ノジュールの破片でガラスレンズが破壊されたメガネ(高いレンズだったのに...)
そういった事があり、大きなノジュールを見つけた時には、大物が中に入っている予感に胸を膨らませつつも、割る苦労を考えると、ちょっと憂鬱な気分になったりします。

砂岩層中に含まれる大きな2個のノジュール(赤矢印)
砂岩層中に含まれるノジュールはとても硬い事が多く、これだけのサイズになると大きなハンマーを振るっても割るのはほぼ不可能に近い。経験的に砂岩層中のノジュールは球状に近いものが多く、泥岩層中のものは楕円形から扁平なものが多い。これは、砂と泥の性質の違いに起因していると考えられている。
地層:蝦夷層群三笠層(中生代後期白亜紀チューロニアン)。
撮影場所:三笠市原石山
そうした中で、いとも簡単に大型ノジュールが割られてしまう事態に遭遇した時のことをお話しします。
三笠市にある桂沢ダムは昭和26年に完成したダムで、その人造湖「桂沢湖」の周辺からはたくさんの白亜紀の化石が見つかります。桂沢ダムは、水の容量を増やすために、近年嵩上げ工事が行われ、令和6年に「新桂沢ダム」として竣工式が行われました。嵩上げ工事に伴い、コンクリート用の砕石が必要なため桂沢ダムにほど近い「原石山」という場所で採石が行われていました。
原石山には蝦夷層群三笠層が分布しており、採石に伴って化石が発見される可能性があります。そうした理由から、ダム工事の実施主体である北海道開発局幾春別川ダム建設事業所のご協力により、採石中に化石などが発見された時は、我々にご連絡をいただくことになっていました。
また、原石山からはノジュールも時折産出することから、発見されたノジュールについても集積いただくこととなっていました。
そういった状況下で、まだダムが工事中だったある日、幾春別川ダム建設事業所の方から、集めたノジュールを見て欲しい、というありがたいご連絡がありました。
早速、学芸員たちで現場に行ってみると、集めていただいたノジュールがゴロゴロ。原石山から産出するノジュールは一般に大型で、直径50cm以上あることも普通です。おまけに砂岩のノジュールなので、半端な硬さではありません。とても我々の手に負えるとは思えず、現場で途方に暮れました。
三笠市にある桂沢ダムは昭和26年に完成したダムで、その人造湖「桂沢湖」の周辺からはたくさんの白亜紀の化石が見つかります。桂沢ダムは、水の容量を増やすために、近年嵩上げ工事が行われ、令和6年に「新桂沢ダム」として竣工式が行われました。嵩上げ工事に伴い、コンクリート用の砕石が必要なため桂沢ダムにほど近い「原石山」という場所で採石が行われていました。
原石山には蝦夷層群三笠層が分布しており、採石に伴って化石が発見される可能性があります。そうした理由から、ダム工事の実施主体である北海道開発局幾春別川ダム建設事業所のご協力により、採石中に化石などが発見された時は、我々にご連絡をいただくことになっていました。
また、原石山からはノジュールも時折産出することから、発見されたノジュールについても集積いただくこととなっていました。
そういった状況下で、まだダムが工事中だったある日、幾春別川ダム建設事業所の方から、集めたノジュールを見て欲しい、というありがたいご連絡がありました。
早速、学芸員たちで現場に行ってみると、集めていただいたノジュールがゴロゴロ。原石山から産出するノジュールは一般に大型で、直径50cm以上あることも普通です。おまけに砂岩のノジュールなので、半端な硬さではありません。とても我々の手に負えるとは思えず、現場で途方に暮れました。

大型ノジュールがゴロゴロ
すると幾春別川ダム建設事業所の方が、「割りますか?」とおっしゃるので、私としては「どうやって?」と思ったのですが、「は、はあ、お願いします」と答えました。
幾春別川ダム建設事業所の方が離れた所にいた重機に向けて手を振って合図をすると、「ブロブロブロッ〜」と黒煙を上げて重機のエンジンが始動し、キュラキュラとキャタピラを軋ませながら重機がこちらに向かってきました。

先端に「ブレーカー」という岩を割る装置が付けられている重機
重機のアームの先には尖った「針」のような装置が付いています。「こ、これで割るのか!」。この装置で岩を割っているシーンはこれまでも工事現場やテレビで見たことはあったのですが、ノジュールの硬さを実体験として知っているだけに、果たして本当にこれで割れるのか、いささか疑問を覚えました。

ノジュールを「破壊」するブレーカーの様子
重機は集められているノジュールの前で止まると、アームを延ばし、ブレーカーの先端を大きなノジュールの一つにあてがいました。次の瞬間「ガッガッガッ!」という轟音と共にブレーカーが振動し、あっという間にノジュールがパカっと割れました。そして、次々と違うノジュールにブレーカーをあてがうと、パカパカと割って行くではありませんか!。

ブレーカーの前にノジュールは無力だった!
これには驚きました。ノジュールがこんなにいとも簡単に割れてしまうとは!それにしても、ブレーカーの「針」の先端はそれほど尖ってはいないし、見ている限りでは、そんなに大きな上下動のストロークがあるようには見えないし、なぜ岩が割れるのか不思議です。実際、割れるのですから、「針」が岩にとても大きな剪断力をかけているのは間違いないのでしょうが、やっぱり不思議です。

割られたノジュールを観察する当館学芸員たち
そうした訳で、全てのノジュールがあっと言う間に割られてしまいました。そして高まる期待を胸にノジュールの断面を調べます。

しかし中身は....
かなりの数のノジュールがあったのですが、期待されていたアンモナイトやイノセラムスを含めて、収集するほどの価値がある化石は、残念ながら発見されませんでした。これらのノジュールに含まれていたのは、上の写真に示したように、多数の植物片や細かい貝殻破片、それから「生痕化石(せいこんかせき)」です。ここで見られた生痕化石は、海底に生息していたゴカイと呼ばれるミミズのような生き物の住んでいた跡や糞などの化石です。
恐らく、こうした内容物の持つ有機物がノジュールを形成するきっかけになったのだと推定されます。とはいえ、ノジュールの大きさの割に内容物のボリュームは、やや少ないようにも感じられました。実際、これに類似した例は、他の場所、異なる時代の地層でも見られる事があり、乏しく見える内容物の割になぜ大きなノジュールが形成されるのか、と言う点については、まだ残されているノジュールの大きな謎の一つです。
最後に、調査にご協力いただいた北海道開発局幾春別川ダム建設事業所の皆様に感謝申し上げます。
余談の余談:雑誌名「ノジュール」!!?
2006年10月のことですが、新聞を開いていたら、いきなり「ノジュール」と言う大きな文字が目に飛び込んできました。新聞で「ノジュール」と言う専門用語を目にするとは全く予想外でしたので、本当にびっくりしました。何かと思い、見直してみると、新しい雑誌創刊の全面広告でした。
雑誌タイトルの趣旨としては、「団塊」の世代向けの雑誌なので、「団塊」に引っ掛けて「ノジュール」としたようでした。本当にびっくりしました。ノジュールを説明する時のネタとしても面白いので、今でもその新聞広告を保管しているくらいです。
実は古生物学の業界内では、少なからずの人が、私と同じように驚いたらしく、その頃、しばしば雑談の話題に登っていました。「ねえねえ、知ってる?ノジュールっていう雑誌がね...」みたいな。


(館長 加納 学)
電話:01267-6-7545
FAX:01267-6-8455