館長コラム 「こんな化石も展示しています」第13回 ー昆虫化石・コハク-
このコラムは化石の持つ魅力について、当館に展示されている化石を紹介しながら、当館館長が独断と個人の感想を交えて、皆様に楽しくお伝えする連載です。
なお、当館はアンモナイト化石の展示は非常に充実しており、またその解説についても詳しい解説板が展示室に設置されているため、このコラムではアンモナイトは取り上げません(たぶん)。それ以外の、一般の人にはあまり知られていないものの、実は魅力的な様々な古生物達について取り上げて行こうと考えています。
さて、今回は「昆虫化石・コハク」を取り上げます。昆虫は現在、地球上で最も繁栄している生物の一つですが、実はその化石はかなりレアです。そこで、昆虫化石はなぜレアなのか、そして、その化石はどのようにしてできるのか、と言うことを本項で紹介します。一方、一般的な昆虫化石のでき方とは、全く異なるでき方をするのが、コハク(琥珀)中に含まれた昆虫化石です。今回はコハクそのものと、それに含まれる昆虫化石についても併せて解説を行います。

「昆虫と化石」
昆虫は現在、陸上で最も栄えている生物の一つです。最古の昆虫はスコットランドで見つかった古生代デボン紀前期のものとされています。生物の歴史の中で、空を飛ぶ能力を最初に獲得したのは昆虫です。遅くとも石炭紀後期には飛ぶ能力を持ち、中生代三畳紀に爬虫類が空に進出するまでは、空の支配者でした。また後期白亜紀には、花をつける広葉樹の受粉に関わるようになり、広葉樹が広く世界中で繁栄する助けとなりました。
このように昆虫は地球上の生態系に大きな影響を与えてきました。現在その種数は一説には300万種以上が存在するとも言われています。それから比較して、昆虫が現れてから現在までの約4億年間には、一体どれくらいの種類の昆虫がいたのか、と考えてみると、恐らく何千万種以上、もしかすると何億種もの昆虫がいたことが想像されます。
たくさんいたのですから、たくさん化石になっていても不思議ではないのですが、実際には昆虫の化石はかなり珍しく、これまで全世界で46,000種あまりが報告されているだけです。46,000種と聞くと多そうに思えるかも知れません。しかし、そうでもありません。例えば、昆虫4億年の歴史の中で、100万年間当たり平均何種類の昆虫がいたのか、と換算して考えると、100万年当たり、たった115種になります。つまり1万年間あたりたった1種ちょっとしかいなかった、と言うことになります。現在、野山に出れば100種くらいの昆虫はすぐに見つかります。このことから類推しても、ほぼ「全てに近い」昆虫が、化石とならずに消え去っている、ということが考えられます。それでは、なぜ化石になりにくいのか、そしてどのように昆虫化石ができるのか、と言うことを次に解説して行きます。
「昆虫化石のでき方」
昆虫が化石になりにくいのは、第一の理由として、昆虫は鉱物化した体を持たないことから、カルシウムなどの鉱物の殻を持つ貝類などと比べて、分解されてしまいやすい事があげられます。
もう一つの大きな理由は、昆虫たちの生息場所など、生態による影響です。昆虫が化石となるためには、昆虫の死骸が、地層に埋まる必要があります。しかし、昆虫の大半は、実は地層に埋もれるチャンスがあまりありません。

コウチュウの一種の化石
時代:新生代古第三紀漸新世
産地:アメリカ コロラド州
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K248 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
一般的に地層は水中で堆積します。従って、昆虫やその死骸が、水のある所に落ち、水底に沈んだ後に地層に埋められたものだけが、化石になれます(実際には地層に埋もれたもの全てが化石になれるわけではありませんが)。そのため、水辺やそのすぐ近くに生息している昆虫は地層に埋もれるチャンスが相対的に高いため、化石となりやすいと言えますが、そうでないものは、可能性が極めて低くなります。
また、水のある場所は、昆虫の死体を集める天然の罠となる事があります。羽のある昆虫が水面に落ちると、水の表面張力によって、羽が水面に貼りついて逃れられなくなる場合があります。特に小さな昆虫だと力が弱いため、また、大きなチョウやバッタのような昆虫だと、面積のひろい羽がべったりと水面に貼り付いてしまうため、そのまま溺死してしまう可能性が高くなります。こうしたことからも、水のある場所は、昆虫の化石ができやすい場所、という事ができます。
一方で、表面張力は、昆虫化石の形成を妨害する役割も果たしています。水面の昆虫は水底に沈まなければ、地層に埋もれるチャンスが無いわけですが、表面張力のおかげで、昆虫が簡単には沈まないのです。水面での漂流時間が長くなると、魚などの餌になったり、死後の腐敗や破損が進行し、遺骸が壊れてしまう可能性が高くなります。実際、水槽実験では、昆虫の死骸は静かな水面ならば、何ヶ月も漂流することもあるそうです。
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K248 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
一般的に地層は水中で堆積します。従って、昆虫やその死骸が、水のある所に落ち、水底に沈んだ後に地層に埋められたものだけが、化石になれます(実際には地層に埋もれたもの全てが化石になれるわけではありませんが)。そのため、水辺やそのすぐ近くに生息している昆虫は地層に埋もれるチャンスが相対的に高いため、化石となりやすいと言えますが、そうでないものは、可能性が極めて低くなります。
また、水のある場所は、昆虫の死体を集める天然の罠となる事があります。羽のある昆虫が水面に落ちると、水の表面張力によって、羽が水面に貼りついて逃れられなくなる場合があります。特に小さな昆虫だと力が弱いため、また、大きなチョウやバッタのような昆虫だと、面積のひろい羽がべったりと水面に貼り付いてしまうため、そのまま溺死してしまう可能性が高くなります。こうしたことからも、水のある場所は、昆虫の化石ができやすい場所、という事ができます。
一方で、表面張力は、昆虫化石の形成を妨害する役割も果たしています。水面の昆虫は水底に沈まなければ、地層に埋もれるチャンスが無いわけですが、表面張力のおかげで、昆虫が簡単には沈まないのです。水面での漂流時間が長くなると、魚などの餌になったり、死後の腐敗や破損が進行し、遺骸が壊れてしまう可能性が高くなります。実際、水槽実験では、昆虫の死骸は静かな水面ならば、何ヶ月も漂流することもあるそうです。

コウチュウの一種の化石
時代:新生代古第三紀漸新世
産地:アメリカ コロラド州
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K249 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
羽を広げているのは、このコウチュウが水面に落ちた時に、水面から飛んで逃れようとして失敗し、羽を広げたまま死亡したのが原因かも知れない。小さな昆虫にとって、水面の表面張力は危険な罠となる場合がある。(本文参照)
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K249 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
羽を広げているのは、このコウチュウが水面に落ちた時に、水面から飛んで逃れようとして失敗し、羽を広げたまま死亡したのが原因かも知れない。小さな昆虫にとって、水面の表面張力は危険な罠となる場合がある。(本文参照)
観察と実験によると、水面にある昆虫が沈むのは、体の中に水が入って重くなる場合、時間の経過とともに遺骸の周りにカビや藻などが形成されたりして重くなる場合、それから、強い波など物理的刺激によって、表面張力が破れて沈む場合などがあるそうです。また、生きている昆虫の場合、もがくことによって表面張力が破れて沈むこともあるそうです。なお、ハサミムシのように羽がない昆虫は、表面張力が大きく働かないので、比較的簡単に沈むそうです。
こうしたことから昆虫の体の作りによって、沈みやすい(=化石となりやすい)昆虫と相対的にそうでない昆虫を生じます。例えば、鱗翅目(りんしもく;チョウやガ)は、現在地球上で栄えている5つの昆虫目の中でも圧倒的に種類が多いのですが、昆虫化石の中では極めて発見数や種数が少ないグループとなっています。この理由は、鱗翅目の持つ大きな羽は表面張力を大きく受けるため、水に浮きやすく、沈みにくい事が原因の一つであると考えられており、これは実験でも確かめられています。

ゴキブリの化石
時代:中生代白亜紀前期
産地:ブラジル クラト州
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K239 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
この標本はゴキブリの腹側を見ている。ゴキブリの仲間は古生代石炭紀から存在し、昆虫の化石の中では比較的よく見つかる。この標本は非常に保存がよく、触覚や、脚にあるトゲまでよく観察できる。
以上見てきたように、生息場所、生きた昆虫と死んだ昆虫、羽のある昆虫とそうでない昆虫、体組織の特徴とサイズ、個々の昆虫の死亡状況などによって、昆虫化石の形成と保存の程度を示すパターンは様々になります。
そうしたことから、我々が現在見ている昆虫化石は、まず、水中や水辺近くに生息していた昆虫が大半で、さらにはそうした昆虫の中でも化石になりやすいもの「だけ」を見ている、という事がお分かりいただけるかと思います。残念ながら、我々は過去の地球上に存在した昆虫相のほんの一部しか知る事ができないのです。
「国内の中生代昆虫化石」
日本では、中生代三畳紀の昆虫化石を最古とし、それ以降、様々な時代の地層から昆虫化石が見つかっています。それでも、時代的に非常に新しい第四紀以降のものを別とすれば、昆虫化石はかなり珍しい部類になります。一方、近年、国内各地の主に新第三紀の湖沼性の地層から、色々な昆虫化石が見つかり始めており、今後大いに研究が発展することが期待されています。
ここでは、当館にとって、時代的に縁が深い、中生代の昆虫化石について見てゆきます。
新生代に比べて、中生代の昆虫化石は大幅に発見例が減り、近年まであまり研究も行われていませんでした。後述のコハク中に含まれる昆虫化石を除くと、国内およそ14の地域から化石が知られています。三畳紀、ジュラ紀、白亜紀それぞれの地層から見つかっており、主要産地を時代別に見ると、三畳紀は、山口県美祢市と岡山県高梁市、ジュラ紀は山口県下関市、前期白亜紀は石川、福井、岐阜県にまたがる手取層群分布地域などが主要産地で、後期白亜紀は、石川から福井県に分布する足羽(あすわ)層群、北海道の蝦夷層群などから見つかっています。
所蔵:三笠市立博物館(MCM-K239 )「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
この標本はゴキブリの腹側を見ている。ゴキブリの仲間は古生代石炭紀から存在し、昆虫の化石の中では比較的よく見つかる。この標本は非常に保存がよく、触覚や、脚にあるトゲまでよく観察できる。
以上見てきたように、生息場所、生きた昆虫と死んだ昆虫、羽のある昆虫とそうでない昆虫、体組織の特徴とサイズ、個々の昆虫の死亡状況などによって、昆虫化石の形成と保存の程度を示すパターンは様々になります。
そうしたことから、我々が現在見ている昆虫化石は、まず、水中や水辺近くに生息していた昆虫が大半で、さらにはそうした昆虫の中でも化石になりやすいもの「だけ」を見ている、という事がお分かりいただけるかと思います。残念ながら、我々は過去の地球上に存在した昆虫相のほんの一部しか知る事ができないのです。
「国内の中生代昆虫化石」
日本では、中生代三畳紀の昆虫化石を最古とし、それ以降、様々な時代の地層から昆虫化石が見つかっています。それでも、時代的に非常に新しい第四紀以降のものを別とすれば、昆虫化石はかなり珍しい部類になります。一方、近年、国内各地の主に新第三紀の湖沼性の地層から、色々な昆虫化石が見つかり始めており、今後大いに研究が発展することが期待されています。
ここでは、当館にとって、時代的に縁が深い、中生代の昆虫化石について見てゆきます。
新生代に比べて、中生代の昆虫化石は大幅に発見例が減り、近年まであまり研究も行われていませんでした。後述のコハク中に含まれる昆虫化石を除くと、国内およそ14の地域から化石が知られています。三畳紀、ジュラ紀、白亜紀それぞれの地層から見つかっており、主要産地を時代別に見ると、三畳紀は、山口県美祢市と岡山県高梁市、ジュラ紀は山口県下関市、前期白亜紀は石川、福井、岐阜県にまたがる手取層群分布地域などが主要産地で、後期白亜紀は、石川から福井県に分布する足羽(あすわ)層群、北海道の蝦夷層群などから見つかっています。
国内最古となる昆虫化石は山口県美祢市の中生代三畳紀後期(ノーリアン)の地層から見つかっています。これらは湿地帯などに堆積した地層です。道路工事に伴って大量の化石が発見され、国内の中生代昆虫化石としては、桁違いの6,000点もの化石が収集されています。コウチュウ、ゴキブリ、バッタ、ハチなど14目の化石が発見されています。たくさんの標本が得られているため、この時代におけるアジア地域の昆虫相を知る上で国際的にも重要な産地となっています。これらの標本の一部は美祢市歴史民俗資料館で見る事ができます。

国内最古級のゴキブリの翅化石
時代:中生代三畳紀後期ノーリアン
産地:山口県 美祢市
所蔵:三笠市立博物館(未登録標本 )収蔵庫に収蔵中
寄贈者:故 解良正利氏
所蔵:三笠市立博物館(未登録標本 )収蔵庫に収蔵中
寄贈者:故 解良正利氏
ジュラ紀は、山口県下関市に分布するジュラ紀前期の豊浦層群から数点のゴキブリ化石が見つかっているだけです。これらの化石は、海で堆積した地層から、アンモナイトなどの化石と一緒に見つかります。
前期白亜紀は、恐竜化石の産出で知られる石川、福井、岐阜県にまたがる手取層群分布地域が主要産地となりますが、標本数はそれほど見つかっていません。
後期白亜紀は、石川から福井県に分布する足羽(あすわ)層群からは比較的まとまった数の標本が見つかっている他に、山口県長門市からも見つかっているようです。北海道からは、文献として公表されている標本が2例知られています。どちらも海で堆積した地層である蝦夷層群から見つかっています。
2例のうち、一つは三笠市で見つかったコウチュウの化石で、これはノジュール中からアンモナイトなどと共に見つかったものです。保存はかなり良好で、潰れずに立体的な形状を保っています。私の印象ではゲンゴロウのような形状をしていたように思われます。この標本は個人コレクションとなっているため詳細は不明です。もう一つは、夕張市で、裸子植物の果実化石の中から見つかったコウチュウの幼虫です。これは果実化石を研究するために切断し、プレパラートとして植物組織を顕微鏡観察している際に発見されたものです。
加えて、論文や文献としては報告されていないのですが、蝦夷層群から、実は、近年少なからずの昆虫化石が、アンモナイトなどと一緒に見つかっています。次にその例を示します。

コウチュウの上翅化石
時代:中生代白亜紀コニアシアン
産地:北海道羽幌町
所蔵・写真提供:絵内 基 氏
左はノジュールに含まれている様子。上翅のある部分を赤矢印で示した。スカフィテスなどのアンモナイトと一緒にノジュールに含まれている事がわかる。右は前翅の拡大写真。
所蔵・写真提供:絵内 基 氏
左はノジュールに含まれている様子。上翅のある部分を赤矢印で示した。スカフィテスなどのアンモナイトと一緒にノジュールに含まれている事がわかる。右は前翅の拡大写真。
上の写真に示したように、発見されているのは、コウチュウの上翅が大半で、左右の上翅2枚のうち1枚だけが見つかるパターンが多いようです。上翅は丈夫なので、コウチュウの体の中では化石として残りやすい部分と言えます。
とはいえ、驚くべきなのは、陸上に生息している昆虫の化石がアンモナイトなどと一緒のノジュールに含まれている事です。このノジュールを含む地層は、水深200mくらいあるような沖合で堆積した地層です。ノジュール中には、炭化した木片などの植物化石も多く含まれているので、この前翅はそうした植物片など陸上起源のものと一緒に、陸上から川・河口を経由して、はるばる沖合まで流されてきて、アンモナイトと一緒に化石になった物だと推定されます。
陸上の昆虫の遺骸が、海の、しかもこんな沖合まで流されて化石になっているとは、かなり予想外の事実です。
こうした化石はサイズが小さいこと、そして産出が予想外なので、これまで見落とされていたのかもしれません。注意深い観察によって今後こうした化石が続々と発見される可能性があります。
蝦夷層群から見つかっている昆虫化石は、どれもまだ正式には研究されていないので、今後多くの化石が発見され、研究されることが期待されます。
「コハク(琥珀)」
これまで、一般的な昆虫化石のでき方を見てきましたが、これとは全く別なでき方の昆虫化石がコハクの中に含まれています。次はそれを見て行きましょう。
コハク(琥珀、英名amber;アンバー)は宝石の一つに数えられ、歴史的にも古代から珍重されて来ました。「琥珀色」という表現があることからも、我々にとって身近な存在である事がわかります。
コハクは、化石となった植物の樹脂です。樹脂は樹木から分泌されるネバネバした粘性のある液体で、それが空気や日光にさらされると、化学的に「重合(じゅうごう)」とよばれる反応が起きて固まり始めます。さらに地層中に埋められた後に、長い時間をかけて「熟成」と呼ばれる化学変化を経てコハクになります。熟成が完了するには数百万年かかると考えられています。
コハク(琥珀、英名amber;アンバー)は宝石の一つに数えられ、歴史的にも古代から珍重されて来ました。「琥珀色」という表現があることからも、我々にとって身近な存在である事がわかります。
コハクは、化石となった植物の樹脂です。樹脂は樹木から分泌されるネバネバした粘性のある液体で、それが空気や日光にさらされると、化学的に「重合(じゅうごう)」とよばれる反応が起きて固まり始めます。さらに地層中に埋められた後に、長い時間をかけて「熟成」と呼ばれる化学変化を経てコハクになります。熟成が完了するには数百万年かかると考えられています。

樹木からにじみ出た(分泌された)樹脂
左:模式図 右:針葉樹の樹皮から分泌された樹脂(当館敷地内で撮影)。樹脂の幅約2cm
樹脂の粘着性は分泌されてから、時には数か月間も続くため、その間に周辺の植物片、花粉、昆虫など生物起源の物体が樹脂に貼りつき、そして塊となった樹脂の中に封じ込められることがあります。こうして閉じ込められた生物起源の物体のことを「生物性含有物;バイオ・インクルージョン」と言います。
樹脂に封じ込められた生物性含有物は、いわばプラスチック漬けのような状態で、外界から遮断されて、破壊を免れるため、2億年以上もの時間を経ても、まるで昨日のものであるかのように美しい状態で保存されています。
ただし、樹木から地面に落ちた樹脂の塊は、そのまま風化・分解されて消え去ることが普通だと考えられています。そのため、樹脂がコハクとなるためには、消え去る前に、運よく地層の中に埋められ、風化・分解作用から逃れる必要があります。
地層の堆積(砂や泥が降り積もって地層が形成されて行く現象のことを「堆積」という)は、水の流れのある所で起こります。そのため、樹脂を分泌する樹木が、川や湿地、海岸近くなど、水辺に近いところに生えていると、地層に樹脂が埋もれやすく、結果的にコハクが形成されやすくなります。実際、コハクが見つかるのは、そのような場所で堆積した地層である例が多いです。
コハクの元となる樹脂を分泌した樹木の種類は、時代ごとの植生を反映して、古生代から中生代は裸子植物、新生代からは被子植物が主となっています。
世界最古のコハクは古生代石炭紀後期の地層から見つかっていますが、その中に昆虫化石は見つかっていません。昆虫入りコハクで世界最古のものは中生代三畳紀後期のものが知られています。日本最古のコハクは、千葉県銚子市と北海道中川町にある中生代後期白亜紀アプチアンの地層から発見されており、どちらにも昆虫化石が含まれています。
世界最古のコハクは古生代石炭紀後期の地層から見つかっていますが、その中に昆虫化石は見つかっていません。昆虫入りコハクで世界最古のものは中生代三畳紀後期のものが知られています。日本最古のコハクは、千葉県銚子市と北海道中川町にある中生代後期白亜紀アプチアンの地層から発見されており、どちらにも昆虫化石が含まれています。
「コハク・コパール・樹脂」
ところで「樹脂」がどれだけ熟成すれば「コハク」と言ってよいのか、という定義はやや曖昧です。「コパール」と呼ばれる、一見コハクのように見えるものがあります。コパールは、一般的なイメージとして「時代的に新しく、コハクになりかけている樹脂」というものです。コハクと同様に、中に昆虫などが含まれていることがありますが、市場価格は宝石として取引されるコハクに比べると、相当に安価です。
コハクは、酸化が進むほど色が濃くなり、またひび割れも多くなってくる傾向がありますが、コパールは新しいだけに、色も淡く(透明度が高い)、ひび割れもほとんどないことが多いようです。一見して「人工的なプラスチック」のように見えることもあります。また熱した時の溶解温度がコハクより低いという物性的な違いもあり、クロロホルムのような薬品を溶剤として使って溶かすこともできます。
とはいえ、コハク、コパール、さらに樹脂との、それぞれの境界を見定めることは、実は難しい問題です。

コパール
この標本はシロアリの化石を多数含んでいる。このように一般的にコパールはひび割れがなく、透明度も高い。質感的にもプラスチックのような印象を受ける。
時代:新生代第四紀
産地:マダガスカル
所蔵:徳島県立博物館
※平成24年度 三笠市立博物館 特別展「化石のキセキ」の展示資料として撮影
時代:新生代第四紀
産地:マダガスカル
所蔵:徳島県立博物館
※平成24年度 三笠市立博物館 特別展「化石のキセキ」の展示資料として撮影
ある研究者は年代で分けており、またある研究者は硬さや溶解温度で分けるとしています。硬さや溶解温度で分類する案は科学的ではありますが、「時代」という尺度が含まれていないので、極端な例では、それぞれの熟成環境次第で、古くても「コパール」、新しくても「コハク」という風に判断される可能性もあり、我々の感覚とはズレが生じることがあるかも知れません。
また宝石の世界では、「赤外分光法」という技術を用いた装置で識別を行なってもいるようです。
Andersonという学者はコハクを古さで分類する次のような案を出しています。
コハク: 4万年より古い樹脂
コパール: 4万年前~5千年前までの樹脂
古代の樹脂: 5千年前~250年前のもの
現代の樹脂: 250年前より新しいもの
とはいえ、なぜ4万年前なのか、とあまりすっきりしない部分もあります。
私の印象としては、Andersonの分類に従うのが便宜的な意味でも良さそうですが、やや曖昧な部分は残ってしまいそうです。

虫入りコハク
コオロギ様の昆虫が含まれている。コパールと比較すると多数の亀裂が見られる。産地のドミニカは世界的なコハク産地として有名。
時代:新生代第三紀中新世
産地:ドミニカ
産地:ドミニカ
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K 251)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
購入標本
「コハクに閉じ込められた昆虫」
コハク中には、ついさっきまで生きていたのか、と思わせるほどリアルな昆虫などの化石が含まれていることがあります。昆虫の化石は、地層中から発見されることがありますが、コハクの中のもの程「生々しい」状態では決して見つかりません。
そうした意味では、コハク中の昆虫化石は、昆虫の進化を知る上で、かけがえのない資料だということができます。
ただ、コハク中の昆虫は見た目の完全さに比べて、実は内臓や筋肉など、体の中身となる柔らかい組織は一般的には残されていません(例外的に保存されていることはあります)。従って、多くの場合、昆虫の表皮だけが残っている、と言う事になります。
その理由として、昆虫は体内に、自己分解酵素と、酸素がなくても活動できる嫌気性の細菌を持っているので、例え、樹脂に封入され空気と遮断されたとしても、体内の柔らかい組織は比較的短い時間で腐敗・分解されてしまい、残らないのです。
映画「ジュラシックパーク」ではジュラ紀のコハクに含まれた蚊から、恐竜の血液のDNAを取り出し、恐竜をよみがえらせる、という描写がありました。物語のアイデアとしては非常にユニークですが、実際にはほぼ実現性がないそうです。
と言うのは、わずか1万年前のコパールに含まれた昆虫を分析しても、極めて断片的な(昆虫自身の)DNAしか採取できないからです。まして、数百万年前や、恐竜時代の1億年前といった古いものだとDNAの採取と復元は極めて難しいと考えられています。

虫入りコハク
時代:新生代第三紀中新世
産地:ドミニカ
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-K 251)「4 生命の歴史と化石」コーナーに展示中
購入標本
購入標本
コハク中に含まれている昆虫の大きさはそれほど大きくなく、体長3mm以下のものが大半を占めるそうです。サイズの大きな昆虫が少ない理由については、大きな昆虫は力が強く、ネバネバした樹脂から自力で脱出可能なため、小さいものだけがトラップされてるためではないかと考えられています。
実は、発見されるコハクの中に昆虫などの生物性含有物が含まれる割合は非常に低いとされています。つまりほとんどのコハクには何も含まれていない、ということになります。実例として、レバノンの白亜紀のコハク産地65か所を調査して、コハクに昆虫が含まれていたのは、わずか5か所でした。同様にスペインの白亜紀のコハク産地45か所以上の調査結果でも、生物性含有物が見つかったのは、わずか5か所だったそうです。
一方、昆虫が含まれているコハクが見つかる場所では、そこから見つかるコハクの多くに昆虫が含まれています。このように、「全か無か」のような現象がしばしば見られます。
なぜ何も含まれていないコハクの方が多いのか、ということは大きな謎とされています。樹脂が地下の根から滲み出ている、と言う説もありましたが、地中にも昆虫はいるはずです。また洪水の時に、洪水に反応した樹木が、水面下で樹脂を分泌させているので、昆虫がトラップされない、などといった説もあります。いずれにしても、この問題についてはまだ謎のままとなっています。
「コハクの元となった樹木」
コハクの元となる樹脂を分泌した樹木の種類は、時代ごとの植生を反映して、中生代白亜紀以前の地層から見つかったコハクは裸子植物起源が多数を占め、新生代からは被子植物起源のものが多数派となります。
被子植物グループの中心的存在である広葉樹は、後期白亜紀以降、地球上の樹木としてたいへん栄えたことが化石からわかっています。しかし実際には白亜紀のコハクの起源となった植物は、大半が裸子植物である針葉樹だとされ、広葉樹起源のコハクはほとんど見つかっていません。まだ白亜紀には樹脂を大量に分泌する広葉樹は発展途上だったのかも知れません。
裸子植物か被子植物かは別として、今のところ、コハクを化学分析して、具体的にどの種類の樹木によって分泌されたものか、と言うことは一部の種類でしか実現できていません。
ただし、針葉樹由来と広葉樹由来かは化学的に識別できる場合があります。非揮発成分がジテルペノイドなら主に針葉樹由来、トリテルペノイドならば被子植物由来という区分ができるそうです。
裸子植物ではナンヨウスギ科、ヒノキ科、マツ科が主であったと考えられています。北海道の後期白亜紀層の地層である蝦夷層群からもナンヨウスギの仲間の葉や球果の化石がしばしば発見されていますので、それらがコハクの起源となっていたと推測されます。マツ科は樹脂をたくさん分泌すること知られています(いわゆる「松ヤニ」として知られている)が、樹脂の中では、化学的性質の理由から破壊・分解されやすいため、そのコハクはあまり見つかりません。

ナンヨウスギの仲間の復元図
葉の化石は北海道からもたくさん発見されている。ナンヨウスギの仲間の分泌した樹脂が白亜紀のコハクの起源となっている例が世界的にも多く報告されている。
コハクの元となる樹脂は、一年の中でも限られた時期に分泌されていた可能性が高いと考えられています。樹脂の分泌量は、樹脂の粘性(ネバネバ具合)と樹木内部の樹液の圧力によってコントロールされます。つまり粘性が低くて(流れやすい)、樹木内部の樹液の圧力が高い(木の内部から外部へ押し出す圧力が高い)ほどたくさん滲み出てきます。こうした条件は、気温の高い時に満たされます。そうしたことから、樹脂は、春から夏にかけての気温が高い時期にたくさん生産されます。また、1日単位で見た場合、昼と夜では、気温が下がる夜の方が分泌量が減ることになります。
実際の例として、世界的に有名なバルト海沿岸で採取されるコハクの中には、ナラ類の花の一部(星状毛)が多く含まれています。ナラ類の花は春から初夏に咲くため、この季節に盛んに樹脂が分泌されていた証拠だと考えられています。
「国内のコハク産地とその産状」
国内では中生代白亜紀〜新生代第四紀の地層から発見されています。しかし白亜紀層からは、決まった場所以外、ほとんど見つかりません。新生代新第三紀から第四紀層からは時折見つかりますが、1箇所からまとまって大量に発見されることはあまり無いようです。

新第三紀の地層から発見されたコハク
ビカリアなど、熱帯性のマングローブの干潟で生息していた巻貝化石を産出する地層から発見されたもの。
時代:新生代新第三紀中新世
産地:岡山県奈義町
所蔵:個人蔵(同前万由子氏)
所蔵:個人蔵(同前万由子氏)
白亜紀層から見つかるコハクで、量的にたくさん見つかり、また昆虫が含まれているのは、北海道中川町(アプチアン)、岩手県久慈市(サントニアン)、千葉県銚子市(アプチアン)だけです。当館の立地する三笠市の白亜紀層(チューロニアン)からも比較的たくさんのコハクが見つかることで知られていますが、残念ながらまだ昆虫は確認されていません。
国内で最もたくさんコハクを産出するのは、岩手県久慈市です。また商業利用できる程の量と質を兼ね備えている産地も国内ではここだけです。さらにコハク中から非常にたくさんの昆虫化石が発見されています。ここでは古く江戸時代から採掘が行われていました。実際、現地で露頭を観察すると多くのコハクを容易に発見することができます。現地にある久慈琥珀博物館ではたくさんの標本やコハクに関する資料を見る事ができます。

岩手県久慈市に分布する白亜紀層の海岸露頭で観察されたコハク

岩手県久慈市に分布する白亜紀層の海岸露頭で観察されたコハク
このような比較的大きな塊も珍しくない。ただし多くのコハクには亀裂が入り、また透明度が非常に低いことから、かなり風化を受けているものが多いと考えられる。
時代:中生代白亜紀サントニアン
撮影地:岩手県久慈市
世界的に見て、コハクをたくさん含む地層は、陸上(湿地)に堆積した地層か、海岸近く(海岸湿地や、ラグーンなど)に堆積した地層が大半であることから、陸地か陸地に近い地層が一般的と言えます。
時代:中生代白亜紀サントニアン
撮影地:岩手県久慈市
世界的に見て、コハクをたくさん含む地層は、陸上(湿地)に堆積した地層か、海岸近く(海岸湿地や、ラグーンなど)に堆積した地層が大半であることから、陸地か陸地に近い地層が一般的と言えます。
ここに写真を示した岩手県久慈市のコハクも、コハクを含む地層の堆積環境は、ごく水深の浅い海底か、河口近くの氾濫原(湿地)であったと考えられています。
いずれにしても、樹脂が樹木から地面に垂れたその場所で、そのまま地層に埋もれることはほとんどありません。通常はその場所から、何らかの水の流れで流され、別の場所で地層中に埋まるのが普通だと考えられています。また、樹脂は比重が1に近く、軽いことも水流で容易に流される原因となっています。
いずれにしても、樹脂が樹木から地面に垂れたその場所で、そのまま地層に埋もれることはほとんどありません。通常はその場所から、何らかの水の流れで流され、別の場所で地層中に埋まるのが普通だと考えられています。また、樹脂は比重が1に近く、軽いことも水流で容易に流される原因となっています。
「三笠で見つかるコハク」
当館に、ほど近い場所からもコハクが見つかっています。
蝦夷層群三笠層は水深の浅い海底に堆積した地層ですが、コハクは三笠層の中でも、最も水深の浅い部分で堆積した地層から産出します。この地層は恐らく、岸に近い非常に水深の浅い海底か、干潟や海岸湿地のような地形で堆積したと考えられています。コハクの産出頻度は、かなり高いのですが、サイズは大きくても5cm以下で、大半が平板状に潰れており、ひび割れも多く保存状態はあまり良くありません。

三笠層から採集されたコハク
時代:中生代白亜紀チューロニアン
地層:蝦夷層群三笠層
産地:三笠市奔別川 (三笠ぽんべつダム建設予定地)
所蔵:三笠市立博物館 未展示(未登録標本)
※北海道開発局幾春別川ダム建設事業所、三笠ぽんべつダムJV工事事務所のご協力で現地調査とコハクの採集を行いました。
三笠市はかつて炭鉱の街であり、石炭を含んだ地層が広く分布しています。この地層は石狩層群幾春別層と呼ばれる古第三紀始新世に堆積した地層です。石炭は主に湿地帯に埋没した植物から形成されることから、幾春別層は流れの淀んだ川や湿地帯で堆積した地層と推定されます。幾春別層からは、小さなコハクが稀に、植物化石とともに見つかる事があります。下の写真にそうしたコハクを示しました。たくさんの植物片が流れてくる湿地帯には、樹脂片が流れ込むことが、しばしばあり、そうした樹脂がコハクとなったと考えられます。ただし幾春別層からは小さなコハク片だけで、大きな塊は見つかりません。

古第三紀層中に含まれるコハク
石炭層を含む石狩層群幾春別層に含まれていたコハク。多数の植物片が同じ岩に含まれている。
時代:新生代古第三紀始新世
産地:北海道三笠市
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-M193)「7 三笠の化石 」コーナーに展示中
採集者:故 早川浩司氏
また、幾春別層から産出する石炭の中にも小さなコハクの粒がまれに含まれています。恐らく石炭の元となった「泥炭(でいたん)」の中に流れ込んだ樹脂がコハクとなったものと考えられます。
所蔵:三笠市立博物館(収蔵番号MCM-M193)「7 三笠の化石 」コーナーに展示中
採集者:故 早川浩司氏
また、幾春別層から産出する石炭の中にも小さなコハクの粒がまれに含まれています。恐らく石炭の元となった「泥炭(でいたん)」の中に流れ込んだ樹脂がコハクとなったものと考えられます。

石炭中に含まれるコハク
時代:新生代古第三紀始新世
産地:北海道三笠市 旧幌内炭鉱
所蔵:三笠市立博物館(未登録標本 )
所蔵:三笠市立博物館(未登録標本 )
これまで見てきたように、コハクは陸上や、陸上に近い海で堆積した地層から見つかることが一般的ですが、実はそうしたセオリーに反して、水深の深い海底で堆積した地層からもコハクが見つかる事があります。次にそうした例を示します。


ノジュール中に含まれたコハク
時代:中生代白亜紀チューロニアン
地層:蝦夷層群
産地:北海道三笠市
所蔵:三笠市立博物館(MCM-A1808 )「6 蝦夷層群のさまざまな化石」コーナーに展示中
寄贈者:松田敏昭氏
ノジュール中には多くの木片を含んでいる。このノジュールには含まれていないが、この産地付近ではアンモナイトとコハクが同じノジュールに含まれていることもある。
上の写真で示したノジュール中のコハクは、三笠市内で発見されたものですが、先に示した三笠層や幾春別層から見つかったコハクとは大きく異なり、恐らく水深200mもあるような深い海底で堆積した地層から見つかったものです。
この地層からは時々コハクが見つかるため、偶然の発見ではなく、ある程度の量のコハクが地層中に含まれていると考えられます。この写真に示したように枝のような木片とともにコハクが見つかることも多いため、海岸近くの水深の浅い海底から、樹脂の塊が大量の樹木片とともに深い海底まで流されて来たのだと推定されます。
所蔵:三笠市立博物館(MCM-A1808 )「6 蝦夷層群のさまざまな化石」コーナーに展示中
寄贈者:松田敏昭氏
ノジュール中には多くの木片を含んでいる。このノジュールには含まれていないが、この産地付近ではアンモナイトとコハクが同じノジュールに含まれていることもある。
上の写真で示したノジュール中のコハクは、三笠市内で発見されたものですが、先に示した三笠層や幾春別層から見つかったコハクとは大きく異なり、恐らく水深200mもあるような深い海底で堆積した地層から見つかったものです。
この地層からは時々コハクが見つかるため、偶然の発見ではなく、ある程度の量のコハクが地層中に含まれていると考えられます。この写真に示したように枝のような木片とともにコハクが見つかることも多いため、海岸近くの水深の浅い海底から、樹脂の塊が大量の樹木片とともに深い海底まで流されて来たのだと推定されます。
実は、北海道最古であり同時に日本最古でもある中川町の後期白亜紀アプチアンの地層から大量に見つかっているコハクも、この三笠のコハクと同様に深海性の地層から産出しています。このことから、両者は同じような堆積経過を経ていることが考えられます。
昆虫化石の項でも、深い海で堆積した蝦夷層群から昆虫化石が見つかっていることを述べました。こうした実例からも、陸上のものは割と普通にしばしば深海まで運ばれてくる事が想像されます。
「世界的にコハクが多く形成された時代がある」
世界に目を向けると、最古のコハクが産出した石炭紀から現在まで、各時代から均等にコハクが発見されている訳ではありません。近年の研究で、実はコハクが多い時代、逆にほとんど見つからない時代があることがわかって来ました。また中生代の終わりまでは、コハクの地理的な分布が北半球に偏っていることも指摘されています。

コハクの産出が目立つとされる4つの時期
この表では、各時代の長さが、実際の長さとは異なり、均等に表されていることに注意。
この時期以外のコハクは見つからない、ということではなく、「特に量が多い時期」という意味で示している。
この原因については、まだよくわかっていません。何らかの理由で、世界的に樹脂がたくさん生産される時代があったのだと考えられています。例えば、現代の樹木を観察すると、何らかの刺激を受けると、たくさんの樹脂が滲み出てくる事がわかっています。
そうした刺激のうち、防衛反応的なものとして、病気になったり、傷ついた樹木は大量の樹脂を分泌します。具体的なダメージとして、病原菌や昆虫が樹木に穴を掘ったり、山火事で樹木の表面が焼けることなどが考えられています。例えば、コハクが多く作られた白亜紀は酸素濃度が上昇した影響から山火事が多く、それが影響したという説もあります。
また、気候的なものとして、暖かくて雨が多いと樹脂の分泌が増すと考えられます。後期三畳紀ノーリアンは地球史上でも特に雨が多かった時代とされていますが、この時代の地層からもコハクが多く見つかっており、こうした気候との関連が疑われています。
まだ不明な点が多いのですが、地球規模での出来事が、コハクの形成と関係しているとすれば、大変興味深いですね。
そうした刺激のうち、防衛反応的なものとして、病気になったり、傷ついた樹木は大量の樹脂を分泌します。具体的なダメージとして、病原菌や昆虫が樹木に穴を掘ったり、山火事で樹木の表面が焼けることなどが考えられています。例えば、コハクが多く作られた白亜紀は酸素濃度が上昇した影響から山火事が多く、それが影響したという説もあります。
また、気候的なものとして、暖かくて雨が多いと樹脂の分泌が増すと考えられます。後期三畳紀ノーリアンは地球史上でも特に雨が多かった時代とされていますが、この時代の地層からもコハクが多く見つかっており、こうした気候との関連が疑われています。
まだ不明な点が多いのですが、地球規模での出来事が、コハクの形成と関係しているとすれば、大変興味深いですね。
本項の執筆には絵内 基氏(三笠市立博物館ボランティアの会)のご協力をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
(昆虫化石とコハクの項終わり)
余 談:「膨大な数で圧倒しても化石への道は遠い....」
地球上では昆虫が栄えています、と本編で書きました。時にそれを実感させられるような出来事に遭遇します。例えば、2022年の8月終わりから9月初め頃に、三笠市周辺で日本最大級のガである「クスサン」が大発生しました。当館でも、夜になると外灯に集まり、翌朝になると、外灯やその周辺がクスサンで埋められている、というようなことが、しばらくの間、繰り返されました。

毎朝、大量の羽が地面に落ちていたので、カラスなどもかなりの数のクスサンを捕食してはいたようです(胴体のみを食べて羽を残す)。しかし全く追いついておらず、無傷な膨大な数のクスサンが見られました。捕食に対してクスサンは完全に量で圧倒していたようです。

まるで枯れ葉のようですが、全部クスサンです。 大半が生きています。夜になると再び活動を始めます。


外灯にも鈴なりになっていました。
ただ、本編でも解説したように、これだけたくさんのクスサンがいるのだから、化石になれるか、と言えば、そうでは無いことが実感されました。観察を毎日続けていると、死体がどんどん腐敗し、羽もボロボロになって消滅して行くのがよくわかります。
やはり昆虫は、簡単には化石にはなれないのです。
(館長 加納 学)
電話:01267-6-7545
FAX:01267-6-8455