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アンモナイト・イヤー企画 「今月のアンモナイト」2025年10月号

当館は2024年に、開館45周年を迎えました。そこで、46年目に当たるこの2025年を「アンモナイト・イヤー」と位置付け、アンモナイトいっぱいの年にしたいと考えています。その取り組みのひとつとして、毎月、収蔵庫からアンモナイトを選び出し、展示するロビー展示シリーズ今月のアンモナイトを開催しています。
 

2025年10月、第10回目の「今月のアンモナイト」は、「『カボチャ石』とその仲間たち」です。


10月31日のハロウィンは、すっかり日本でも定着しました。街中にも、カボチャをくり抜いて作ったジャック・オー・ランタンがたくさん飾られていますね。

さて北海道の浦河地域では、江戸時代にはアンモナイトのことを「カボチャ石」と呼んでいました。これは、当時「蝦夷地」と呼ばれていた北海道を探検した松浦武四郎(1818年3月12日〜1888年2月10日)が、その探検中に記した日誌の中で、そのことを記録しています。ただし、その「カボチャ石」と呼ばれていたアンモナイトの種類までは、正確な記録が残っていないため不明です。
 
 ですが、候補としては、現在でも浦河地域から多産する、ユーパキディスカスメヌイテスなどのパキディスカス類が挙げられます。これらは、殻が左右に大きく膨らみ、肋が等間隔で並んでいる様子が、確かにカボチャにそっくりです。おそらくこれらが「カボチャ石」と呼ばれていたのでしょう。

 
 
「カボチャ石」と呼ばれていたと推測されるユーパキディスカスメヌイテスは、「パキディスカス類」というグループに含まれ、北海道では比較的たくさん見つかります。そして、このグループに含まれるアンモナイトは、互いに近縁な種であるにもかかわらず、様々な形をしています。「1月のアンモナイト」として紹介したパキディスカス・サエキメヌイテス・ソーヤエンシス、「2月のアンモナイト」として紹介したノワキテスも、このパキディスカス類に分類されます。

一部のパキディスカス類は、とても大型に成長します。この博物館には、直径60 cm程度の標本が展示されていますし、同じ蝦夷層群が分布するサハリンでは、67 cmに達する個体が見つかっています。さらに海外では、直径70 cmを超えるものも見つかっています。その一方で、小型の種類は、直径5 cm足らずで大人になってしまいます。
また一部の種類は、殻の表面に何本ものトゲが生えています。ところが、逆に、あまり装飾のないパキディスカス類もいます。

殻の太さも、種類によってまったく異なります。上で紹介したユーパキディスカスやメヌイテスは、特に北海道で見つかる種類は、殻が左右にでっぷりと太く、かなりずんぐりむっくりした形をしています。ところが、グループの名前にもなっているパキディスカスキャナドセラスパタジオシテスなどは、殻は比較的スレンダーな姿をしています。そもそも「パキディスカス」は、「厚い皿」といったような意味ですが、「パキディスカス類」の中ではパキディスカスはスレンダーな形をしている、というのもちょっと奇妙な話ですね。

このように、一口にパキディスカス類と言っても、極端に形が異なる種類がいるのです。
 

 
2017年、日本古生物学会が、化石や古生物への興味関心を高めるために、10月15日を「化石の日」としました。なぜ10月15日が「化石の日」なのかというと、日本を代表する化石として世界的にも有名な異常巻きアンモナイト、ニッポニテス・ミラビリスの命名論文が発表されたのが、1904(明治37)年10月15日だったためです。命名者は、東北帝国大学教授で、のちに日本古生物学会初代会長に就任するなど、日本の古生物学研究の立役者となる矢部 長克(やべ ひさかつ)でした。

矢部は、パキディスカス類の分類にも取り組み、1926年には、自身が指導した学生の清水三郎と共に、「アナパキディスカス」という名前を命名しました。このアナパキディスカスは、パキディスカス類の中でも特に左右に厚みのある殻を持ち、最大で50cm以上に成長する種類だとされました。以来、北海道では、アナパキディスカスは、比較的化石がたくさん見つかることもあって、比較的馴染み深いアンモナイトとして知られるようになりました。

ところが、命名から半世紀以上経った1993年、アメリカ地質調査所の研究者であるウィリアム・コバンが、アナパキディスカスは「メヌイテス」という種類に含まれる、という論文を発表しました。メヌイテスは、大きくても精々直径15cmくらいまでにしかならない種類ですが、殻の断面の形や、化石が見つかる地層がアナパキディスカスと一致します。コバンは、アナパキディスカスとメヌイテスが、雌雄で大きさや形が異なる「性的二形」という組み合わせになると考えたのです。
もしアナパキディスカスとメヌイテスが同じ種類であれば、先に命名された方の名前に統一しなければなりません。メヌイテスという名前は、矢部たちがアナパキディスカスという名前を命名する、わずか4年前に命名されていました。コバンの説はその後、広く受け入れられたため、この2種類のアンモナイトは、まとめて「メヌイテス」と呼ばれることになり、「アナパキディスカス」という名前はしばらく使われなくなりました。

しかし今年になって、アメリカの古生物学者、サンディ・マクラクランが、矢部の説を支持して、アナパキディスカスとメヌイテスは別の種類である、という論文を出版しました。その論文では、「メヌイテス」は、4列の突起を持ち、成長が終わると、殻口(かっこう;生きていた時に、軟体部が出ている、殻の巻き終わりの部分)にくびれが生じるのに対し、そうした特徴が見られない種類は「アナパキディスカス」として区別するべき、と指摘しています。ただし、マクラクランも、より厳密な分類には、更なる研究が必要であることは認めています。

果たしてアナパキディスカスはメヌイテスと同じ種類なのか違う種類なのか、議論はまだ続きそうです。
 

ハロウィンの起源は、一説には古代ケルト人のお祭り「サウィン」と言われています。ケルト人は、11日1日が冬の始まりで、新しい年の始まりとしていました。そして、1年の最後の夜には、生者と死者の世界が交わって、悪魔や妖精、その1年間に亡くなった死者の霊が現れると考えていました。「サウィン」は、その霊魂を鎮めるため、焚き火をし、食べ物を捧げて、地上に現れた死者の霊に気付かれないように仮装した儀式です。

パキディスカス類も、アンモナイトの“冬の始まり”、つまりアンモナイトが絶滅に向かって、衰退を始める頃に繁栄したグループです。北海道では、サントニアン期(約8300万年前)という時代以降、時代が進むにつれて、アンモナイトの種数は減っていきます。しかしそんな時代でも、パキディスカス類は新たな種が出現しています。
さらに、一般には、アンモナイトは、白亜紀の終わりに絶滅したと言われますが、北アメリカでは、白亜紀の次の時代、新生代の地層から、パキディスカスを含むアンモナイトの化石が発見されています。

実は、アメリカ以外に、デンマークからも、新生代の地層からアンモナイトの化石が発見された例が報告されています。世界のごく限られた海域では、非常に短期間ですが、白亜紀が終わった後も、アンモナイトが生き延びていたようです。パキディスカスも、そんな“アンモナイトの終焉”を見届けた最後の種類だったのです。
 


「カボチャ石」と呼ばれていたであろうアンモナイト、ユーパキディスカスやメヌイテスとその近縁種たちは、10月いっぱい三笠市立博物館ロビーにて展示しています。期間限定の展示ですので、この機会をお見逃しなく!

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市立博物館
電話:01267-6-7545
FAX:01267-6-8455

〒068-2111 北海道三笠市幾春別錦町1丁目212-1 電話 01267-6-7545 FAX 01267-6-8455
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
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