三笠市立博物館

館長コラム 「こんな化石も展示しています」第2回 -三葉虫その2-

 
このコラムは化石の持つ魅力について、当館に展示されている化石を紹介しながら、館長が独断と個人の感想を交えながら、皆様に楽しくお伝えする連載です。

 前回(第1回)では、化石愛好家の世界では、三葉虫(さんようちゅう)は「化石の王様」、アンモナイトは「化石の女王様」と呼ばれていること、国内における両者の力関係は、一般社会での認識そして学術世界のどれをとってもアンモナイト派が強大なことを目のあたりにしました。そうした状況下において、私は我が国における三葉虫の地位向上を目論んでいることを述べました。今回からは、具体的に三葉虫がどのような生き物であるか、どのように化石となっているのか、ということについて回を重ねてお話をしたいと思います。

こんな生き物

三葉虫はアンモナイトが栄えた中生代よりも、古い古生代(約53800万年前~25100万年前)の海に生息した節足動物(エビ・カニ・昆虫など)の仲間です。節足動物の中では、カニやエビなどの甲殻類(こうかくるい)よりも、サソリ、クモ、カブトガニに近いといわれています。


三葉虫の生息時代

三葉虫は海にのみ生息していました。古生代の終わりに絶滅しましたが、世界中で約2万種類ともいわれる化石が見つかっており、形のバリエーションは驚くほど多様です。大きさは最大で体長70cmあまりになりますが、310cm程度の種が大半です。
 

三葉虫の研究の歴史は、他の化石と比べても古く、17世紀末にイギリス人のルイドが科学雑誌に「カレイ(魚)の化石」として論文に書いたのが最初とされています。ちなみに論文に描かれた図を見ると明らかに三葉虫であって、カレイには見えません。
また「三葉虫」という言葉はドイツ人の学者ヴァルヒが1771年に出版された論文中で用いたのが最初です。

生物の歴史上、三葉虫には大きな意義が二つあります。
硬い殻をもった最初の生物の一つだということ。三葉虫が出現した古生代カンブリア紀より古い「先カンブリア時代」には、クラゲのような柔らかい体をもった生物しかいませんでした。
海底を広く掘り返して歩く最初の生物であったということ。三葉虫以前にはこのような生物がおらず、海底の表面でしか生物は活動していませんでした(二次元的な活動範囲)が、三葉虫が現れたことにより、生物の活動範囲が、現在の世界と同じような海底内部をも含んだ三次元的な世界へ広がりました。

体のつくり

三葉虫が属する節足動物は、体の外側に外骨格(がいこっかく)とよばれる固い殻をもち、たくさんの「節(ふし)」によって体ができています。ちなみに私たちは体の内部に骨格があるので、内骨格(ないこっかく)な生物です。
三葉虫は英語でTrilobite(トリロバイト)といい、これはラテン語起源のことばで「三つの葉(よう)に分かれた」という意味です。よく誤解されるのですが、三葉虫は体が頭部・胸部・尾部の三つに分かれているためにその名があると思われがちですが、実際には、縦に左右の「側葉」と中央の「中葉」に分かれているためにそうよばれています(下左図参照)。

三葉虫の体(背側)の分け方

 背側の外骨格は炭酸カルシウムを主成分に作られており、カニやエビよりも丈夫だったと考えられています。下の左側の図に三葉虫が生きていた時のイメージ復元図を示しました。腹側には多くの付属肢(脚)や触覚、内臓を収納した部分などがあります。しかし、これらは柔らかい殻からできているので、三葉虫の死後、腐って消えてしまい、化石として残ることはたいへんまれです。下の右側の図は三葉虫を腹側から見た写真です。写真で見ているのは背甲そのものの裏側で、本来あったはずの付属肢などは見当たりません。このように、体の裏側の部品は化石になりにくいことが分かります。

上左:三葉虫イメージ復元図(背側と腹側)
上右:イソテルス・マキシムス
背甲を裏側から見ている。写真の上側が頭部。頭部に二つ見えるくぼみは、眼の器官が入っていた部分。
体長:74mm

時代:古生代オルドビス紀
産地:カナダ
標本所蔵 三笠市立博物館 展示室1の「生命の歴史と化石」に展示中


次に体の頭部、胸部、尾部の作りについてざっと見てみましょう。
(1)頭部

上図の拡大 
頭部は種類を見分けるのにもっとも重要です。大きく分けて中央にある「グラベラ(頭鞍;とうあん)」とその両側に左右対称にある「フィックスドチーク(固定頬;こていきょう)」と「フリーチーク(遊離頬;ゆうりきょう)」からなります。両チークの接合部は弱線(または「顔線(がんせん)」と呼ばれる溝になっています。ふつう眼は頭部から少し突き出しています。
グラベラは頭部でもっとも目立ち、内部に消化器官や脳を収容するために膨らんでいます。

(2)胸部

上図の拡大
たくさんの胸節からできています。左右の「肋」と「軸環」を合わせて1個の「胸節」となります。胸節の数は種類ごとに決まっていることが多く、数個から20個程度です。一般的に古いタイプの三葉虫ほど数が多い傾向があります。
三葉虫は卵から生まれた時には胸節がありません。そのため、成長のために脱皮をする際に、一つづつ胸節を増やしてゆきます。胸節はその種類ごとに決まった一定の数に達するまで増えてゆきます。

(3)尾部


上図の拡大

尾部は胸節どうしが、くっついて一体化しています。グループによっては一体化がさらに進んで、胸節の痕跡がないこともあります。一般的に原始的なグループは小さな尾部をもち、進化するにしたがって尾部が大型化する傾向があります。

矢印は尾部を示す。左右どちらの種類の尾部も、胸節の一体化が進み、各胸節の境目が不明瞭になっていることがわかる。特に右の種類はその傾向が強い。
上左:ハイパメカスピス・イネルミス
体長:51mm
時代:古生代オルドビス紀
産地:モロッコ
標本所蔵:(財)進化生物学研究所
平成17年度三笠市立博物館特別展図録「三葉虫!」より転載。
上右:アサファス・レピドゥルス
体長:74mm
時代:古生代オルドビス紀
産地:ロシア
標本所蔵 三笠市立博物館 展示室1の「生命の歴史と化石」に展示中

(第3回へ続く)

余 談 「キモかっこいいぞ!三葉虫」

三葉虫の大きな魅力は、種類が多く(約2万種)、形にたいへんバリエーションがあること、そして体が節足動物特有のたいへんメカメカしい雰囲気をもっていることです。逆にそれが「虫っぽく」て気持ちが悪い、と感じる人も多いようで、好き嫌いが大きく分かれる原因となっているように思われます。このようにアンモナイトに比べてクセの強いところがあることから、三葉虫のコアなファンには成人男性(おじさん?)が多いようにも感じられます(注:私個人の感想です)。

 もし生きた三葉虫がいたら、確かに、触るのはちょっと躊躇するかもしれませんが....

三葉虫について、
私がよく体験する悲しいエピソードを紹介しましょう。当館では、毎年GWと夏休みに「化石のレプリカづくり体験」という行事を行っています。

これはお湯で軟化するゴムを素材に作るもので、小さな子供でも数分で簡単にカラフルな化石のレプリカをつくことができることから、たいへん好評な行事となっています(材料費150円)。さらに、何を作るかは10種類のラインナップから自由に選ぶことができます。

それらのほとんどがアンモナイトなのですが、1つだけ三葉虫が入っています。多くの子供は、見た目の美しいアンモナイトを選びますが、実は三葉虫を選ぶ子供も男女を問わず決して少なくはありません。そんな時に私は内心

「ウムウム、三葉虫ってキモかっこいいよね、君はわかってくれたか!」と、ほくそ笑んでいます。

ところが、ところがです!子供が三葉虫をオーダーした次の瞬間、お母さんの、

「そんな気持ち悪いのはやめて、こっちのアンモナイトにしたら?」

という誘導指示がすかさず入ることが珍しくないのです(実話です)。ほとんどの子供は素直です。お母さんの指示にはおとなしく従います。かくして三葉虫は却下、私は寂寥感に身を委ねることになります。どうか世のお母さま方、大人と子供は感性が違うので、好きにさせてあげましょう、お願い申し上げます。

(館長 加納 学)

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