三笠市立博物館

館長コラム 「こんな化石も展示しています」第1回 -三葉虫その1-


このコラムは化石の持つ魅力について、当館に展示されている化石を紹介しながら、当館館長が独断と個人の感想を交えながら、皆様に楽しくお伝えする連載です。

はじめに

化石には私たちを惹きつける不思議な力があるように思われます。例えば、当館に毎年何万人もの方々が化石を見ることを目的にご来館されているわけですし、世の中には化石について書かれた書物が、子供向けの図鑑から、ちょっとオタクっぽくて詳しい本まで、数多く流通しています。また、化石の収集をライフワークにしている方は、洋の東西を問わず決して珍しくはありません。さらに、我々現代人に限らず、過去の人類であるネアンデルタール人も化石に対して興味を抱いていたようです。事実、彼らの作った石器の中には、明らかに化石をデコレーションとして取り込んだ製品も見つかっています。もちろん彼らは化石とは何か、ということを正しく認識していたとは思われませんが、化石の持つ造形に大いに興味をそそられていたことは疑いないでしょう。


三葉虫の頭部
時代:中生代デボン紀
産地:モロッコ
 

 そんな風に、古来より人類は化石に魅了されてきた歴史があるようです。しかし、実体としての化石がどのようなものであるか、ということになると、私が来館者の方々と実際に会話を交わしてきた経験では、多くの方々が「どうもよくわからない」という感想をもたれていることが多いように感じられます。


巨大ザメの歯の化石
時代:新生代新第三紀
産地:アメリカ


そこで、今回から当館に展示されている化石標本などを紹介しながら、化石とはどんなものか、どんな種類があるのか、そしてどんなことがわかるのか、ということについて、回を重ね、時に私の独断と偏見も交えながら皆様にお伝えしようと思っています。このコラムを読んだ皆様が化石に興味をもち、さらには当館へご来館されるきっかけとなることを切に願っています。

なお、当館はアンモナイトの展示とその解説は充実しているので、主にそれ以外の化石について光を当てていこうと考えています。

 

化石の王様三葉虫 (その1) ―三葉虫vsアンモナイト―
まず連載第1回からしばらく、三葉虫(さんようちゅう)について取り上げたいと思います。三葉虫を選んだ理由は、そのメジャーさにあります。三葉虫は化石コレクターの間では、「化石の王様」と称され、対となる「化石の女王様」アンモナイトと並んで、化石界の二大スターの一つです。皆さんも、実物の写真を見たことがなくても、「三葉虫」という単語くらいは聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。

 三葉虫
時代:古生代デボン紀
産地:モロッコ
※第1展示室の「生命と地球の歴史」に展示中


さて、三葉虫について語る前に、まず気になることがあります。それは人々の三葉虫に対する認知度です。「化石の王様」と言われる三葉虫ではありますが、私の感覚としては、あまり一般の人々には認知されていない気がします。そこで、女王たるアンモナイトを比較の対象とし、まずは三葉虫の認知度について、「社会的地位」から分析してみることにします。

私の個人的な見解では、世の中の化石コレクターについて、その人の嗜好を突き詰めると、最終的には「三葉虫派」か「アンモナイト派」のどちらかに帰属するように思われます。さらに私の感覚では、国内においては、圧倒的にアンモナイト派が多いように見受けられます。また、それどころか、北海道においては、化石=アンモナイトとイメージしている人すら多いように感じられます。この背景として、日本では三葉虫はアンモナイト以上にレアな化石であり、加えて北海道においては、これまで1つも三葉虫の化石が発見されていない、という状況が大きく影響を及ぼしていると想像されます。

そこで、アンモナイトと三葉虫について、人々の認知度を調べる手段として、手っ取り早く、「歌」に注目してみました。「歌は世につれ世は歌につれ」と言われるように、楽曲は社会の情勢・認識を鋭敏に反映していると思われます。

防御姿勢の三葉虫

時代:古生代デボン紀
産地:アメリカ
※第1展示室の「生命と地球の歴史」に展示中

そのため、(社)日本音楽著作権協会のHPで、タイトルに「アンモナイト(またはammonite)」や「三葉虫(または英語名称trilobite)」を含んだ曲を検索してみました。 結果、なんとアンモナイトについては42曲もヒットしました。「アンモナイトな夜」「アンモナイトな朝」「アンモナイトなんもない」「アンモナイトの法則」等など、曲名のバラエティーも豊かです。また、歌い手も一青窈や福山雅治など、私でも知っているような有名歌手の曲もありました。

対して三葉虫はといえば、外国曲も含めてわずか4曲(!)にすぎませんでした。また曲名も大体が「三葉虫(またはtrilobite)」の一言のみでそっけなく、情緒的なものは、「三葉虫の見た夢」ただ1曲のみでした。もっとも、「三葉虫」を含んだタイトルが存在していたこと自体が、実は私にとっても驚きではあったのですが。このように、楽曲を例に見ても、社会においてはアンモナイトの方が三葉虫より遥かにポピュラーであるように思われます。 

三葉虫
時代:古生代デボン紀
産地:モロッコ
※第1展示室の「生命と地球の歴史」に展示中

現実として、わが国における三葉虫派の劣勢ぶりは、一般社会のみならず、学術の世界にも表れています。例えば、現在、大学や博物館などに所属するアンモナイトの専門研究者と言えば、簡単に10名を超える個人名が浮かびます。対して三葉虫はと言えば、わずか数名も思いつきません。


三葉虫
時代:古生代オルドビス紀
産地:ロシア
※第1展示室の「生命と地球の歴史」に展示中


結論として、少なくとも我が国の現況においては、三葉虫派の劣勢は明らかと言わざるを得ないようです。しかし「王」たる三葉虫の認知度がこれでよいのでしょうか?否、断じて良くないと思うのです。地球生命史上における三葉虫の重要性を考えると、この古生代の海の王者について人々はもっとよく知るべきではないかと!

今回 、私が連載の第1回に三葉虫を取り上げた理由もここにあります。我が国におけるアンモナイト派の隆盛に対して、三葉虫に対する理解と地位向上を目指すことを目指しています。というわけで、これから数回に分けて三葉虫について語ってゆく予定です。

(第2回へ続く)

余 談 「世界初の家庭用ロボット掃除機と三葉虫」
最近では家庭用ロボット掃除機を使っている方も少なくないと思います。これらロボット掃除機の代名詞として「ル〇バ」という商品名が使われていることが多いようです。しかし、実は世界で初めて(2001年)市販された家庭用ロボット掃除機の商品名は「トリロバイト」、つまり「三葉虫」(!)だったのです。製造したのはスウェーデンの会社です。同国では三葉虫の化石がたくさん見つかるので、彼らにとっては比較的身近?な存在だったのかもしれません。

商品の写真を見てみると、丸くて、頭部と側葉をイメージさせるような凹凸がデザインされています。これが
クルクル動く様子は確かに三葉虫のイメージに合っているように思われます。日本でも発売され、三葉虫好きな私としては個人的に盛り上がりました。ただ残念ながら我が家は、狭いアパートである上に、床に色々なものが置いてあり、とても「トリロバイト」が活躍できる環境ではありませんでしたし、またお値段もかなりお高めであったこともあります。結局、日本ではあまり売れなかったそうで、いつしか市場から消えてしまいました。現今のロボット掃除機の普及ぶりを考えると、「トリロバイト」は時代の先を行きすぎていたのかもしれません。ロボット掃除機の代名詞が「トリロバイト」にならなかったのは、個人的にたいへん残念に思っています。

(館長 加納 学)

「トリロバイト」の画像は↓で見ることができます。
東芝、国内で初めてロボットクリーナー「トリロバイト」を発売 (impress.co.jp)


お問い合わせ先

市立博物館
電話:01267-6-7545
FAX:01267-6-8455