第2~5回では、三葉虫の体のつくりと三葉虫の繁栄と衰退、第5回では化石としての三葉虫について述べてきました。今回でいよいよ三葉虫の項は終了です。
国内で三葉虫の化石を見つけるのはとても難しい
国内で三葉虫を見つけるのは、破片ですら、かなりの難易度となります。実際、アンモナイトを見つけるよりも、たいへんです。なぜ、そのような状況となっているのでしょう?
大まかに次のような理由が考えられます。
(1)三葉虫を産出する古生代の地層が少ない。
(2)日本の古生代層は分量的に石炭紀・ペルム紀が主であるが、古生代終盤となるこの頃は、そもそも三葉虫が衰退しており、三葉虫の生息数が少なかった。
他に、採集する人間側の問題として、
(3)三葉虫を含む地層の岩石の変質が進んでおり、化石を見つけにくい。
(4)小さな破片が多くて見つけづらい。
以下、これらの理由について、順に解説してゆきます。
(1)三葉虫を産出する古生代の地層が少ない。
日本列島は大きな地震がしばしば起こるように、絶えず大地に大きな力が加わっている地域です。こうした場所は、地質学用語で「変動帯」とよばれます。日本列島は、その原型時代も含めて、4億年以上もこうした変動帯に位置してきました。変動帯では、大地がずっと激しく動かされ続けているため、古い地層ほど破壊され消え去っている可能性が高くなります。そうした理由から、古生代の地層は断片的となりがちなのです。
下図に日本で三葉虫が見つかる場所を、便宜的に古生代シルル紀とデボン紀、石炭紀とペルム紀に時代を分けて示し、それらの地域的特徴について述べます。
大まかに次のような理由が考えられます。
(1)三葉虫を産出する古生代の地層が少ない。
(2)日本の古生代層は分量的に石炭紀・ペルム紀が主であるが、古生代終盤となるこの頃は、そもそも三葉虫が衰退しており、三葉虫の生息数が少なかった。
他に、採集する人間側の問題として、
(3)三葉虫を含む地層の岩石の変質が進んでおり、化石を見つけにくい。
(4)小さな破片が多くて見つけづらい。
以下、これらの理由について、順に解説してゆきます。
(1)三葉虫を産出する古生代の地層が少ない。
日本列島は大きな地震がしばしば起こるように、絶えず大地に大きな力が加わっている地域です。こうした場所は、地質学用語で「変動帯」とよばれます。日本列島は、その原型時代も含めて、4億年以上もこうした変動帯に位置してきました。変動帯では、大地がずっと激しく動かされ続けているため、古い地層ほど破壊され消え去っている可能性が高くなります。そうした理由から、古生代の地層は断片的となりがちなのです。
下図に日本で三葉虫が見つかる場所を、便宜的に古生代シルル紀とデボン紀、石炭紀とペルム紀に時代を分けて示し、それらの地域的特徴について述べます。
左図:古生代シルル紀とデボン紀の三葉虫化石産地
この時代の三葉虫化石は、地質学的に「南部北上帯」「飛騨外縁帯」「黒瀬川帯」とよばれる3つの地域から見つかる。これらの3地域は国内でも最も古い地層が分布する地帯である。
右図:古生代石炭紀とペルム紀の三葉虫化石産地
前述の3地域に加え、各地に産地が散在している。これは大まかな図なので「もれ」があることに留意。
・完全体が最もたくさん見つかる「南部北上帯」
「南部北上帯」と地質学的に呼ばれる地域(地名的には、岩手県大船渡市から宮城県気仙沼市周辺)は、日本の古生代層としては珍しく、あまり断片化しておらず、古生代シルル紀からペルム紀までの地層が、広い範囲に分布しています。そのことなどもあり、完全体の三葉虫がデボン紀を始め、特に石炭紀とペルム紀の地層から多く見つかっています。これに比べて、国内他地域では完全体はあまり見つかりません。また、破片であれば、大量に見つかる産地もあり、量的に国内で最もたくさん三葉虫が見つかる地域だと思われます。
三葉虫の尾板(尾部)
写真の幅5cm
時代:古生代デボン紀
産地:岩手県日頃市町(「南部北上帯」に属する)
所蔵:筆者
この産地からは多数の三葉虫が密集状態で発見されるが、破片が大半で、特に尾板が目立つ。
・デボン紀の三葉虫が豊富な「飛騨外縁帯」
「飛騨外縁帯」では、福井県大野市から岐阜県高山市にかけての山中に、断片的にデボン紀層が分布し、三葉虫が見つかっています。特に有名なのが岐阜県高山市福地で、主として石灰岩の中から見つかります。デボン紀の三葉虫は南部北上帯や、近年では後述の黒瀬川帯中にある熊本県美里町などからもたくさん見つかっていますが、日本のデボン紀の三葉虫といえば福地周辺が中心という伝統的なイメージがあります。
・シルル紀の三葉虫が豊富な「黒瀬川帯」と横倉山
国内のシルル紀層は「黒瀬川帯」中にもっともたくさん存在します。黒瀬川帯と呼ばれる地帯は東西に和歌山から熊本まで長く延びていますが、そこに含まれるシルル紀層の大半は、たいへん小規模なものが多く、ほとんど化石は見つかりません。そうした中で、高知県越知町にある横倉山では、広くシルル紀層が分布し、国内でもっともシルル紀の三葉虫が見つかる場所となっています。他に宮崎県五ヶ瀬町にある祇園山も有名です。量的に国内産シルル紀三葉虫は、産出量の恐らく9割以上をこの二つの山で占めます。
国内最大のシルル紀化石産地(横倉山)
高知県越知町
国内では最も多数のシルル紀化石を産出する産地。筆者の最も好きな化石産地。かつて、この山からは建築用の石材として石灰岩が切り出されていた。この石灰岩はピンクがかった色をしていることから、商品名「土佐桜」と呼ばれ、国会議事堂の石材にも使用されている。遠くは、札幌市にある中央警察署の石材にも使われていた(現在は新庁舎となっているので見られない)。また植物学者として有名な牧野富太郎博士のフィールドとしても知られる。牧野博士の出身地は横倉山のある越知町に隣接する佐川町である。
・石炭紀・ペルム紀三葉虫産地
南部北上帯を除いて、日本各地に散在する石炭紀・ペルム紀層の分布は、広がりが数キロ~十数キロに及ぶ石灰岩体であることが大半です。今回は詳しい解説は省きますが、これらは外来石灰岩体(がいらいせっかいがんたい)と呼ばれ、もともとは日本列島付近でできたものでなく、はるか1,000km以上も南から海洋プレートに載って、日本列島までやってきたサンゴ礁の島々の残骸です。こうした石灰岩体の中でもっとも知られているのは、カルスト地形で有名な秋吉台です。秋吉台は、ハワイのような火山島にできたサンゴ礁の名残りなのです。
南方からやってきた巨大なサンゴ礁島の残骸
新潟県糸魚川市にある黒姫山の大半は、石炭紀の石灰岩(サンゴ礁の化石)からなる。この山は石炭紀の古南太平洋にあった海底から海面までの高さが5000mもあるような巨大な海山(火山島)の上にできた太古のサンゴ礁の一部である。海山は、海洋プレートに乗って北上し、ジュラ紀頃に日本付近の海溝に沈み込み、地下深部でバラバラに破壊され、一部がこのように陸上に隆起・露出することとなった。日本列島にはこうした海山の残骸が多数存在している。石灰岩はセメントなどの原料となり、国内の鉱産物としては珍しく、自給率ほぼ100%である。これは海洋プレートの運動と石炭紀・ペルム紀の海山の恩恵である。
日本各地にこうした石炭紀・ペルム紀の石灰岩体があることから、これからも三葉虫の発見が増えることが予想されます。とはいえ、一般的に、あまり三葉虫は含まれていないようです。また、当館がある北海道では、実はこれまで1個も三葉虫が発見されていません。しかし道南にこうしたペルム紀・石炭紀の石灰岩体があるため、いつか三葉虫が発見されるかもしれません。
(2)三葉虫自身の数が減っていた。
三葉虫はオルドビス紀から衰退が始まっています。国内で三葉虫が産出するのはシルル紀以降の地層ですので、そもそも三葉虫の勢力が衰え始めています。また国内に分布する古生代の地層は分量的に石炭紀・ペルム紀の物が大半で、三葉虫の完全な衰退期と一致します。これも見つかりにくい理由の一つと言えるでしょう。
三葉虫の衰退と日本の三葉虫産出層
右図に時代ごとの三葉虫の「科」の数が示されているが、オルドビス紀以後の減少が明らかに分かる。また、特にデボン紀終了以降は明瞭に衰退していることが読み取れる。一方、日本で三葉虫を産出する可能性のある地層は分量的に石炭紀・ペルム紀が大半である。このことから、そもそも日本は三葉虫化石が見つかりにくい宿命にあることがわかる。
ここからは、三葉虫を採集する人間側の問題になります。
(3)三葉虫を含む地層の岩石の変質が進んでおり、化石を見つけにくい
例え三葉虫の化石が岩石に入っていたとしても、岩を割ったときに、化石のある部分で岩が割れてくれないと三葉虫に気づけません。
ここでいう「変質」とは、正確には「再結晶化作用」と言います。これは岩石を作っているもともとの鉱物の結晶が、熱や圧力を受けることによって、別の鉱物の結晶に変化してゆくことです。これにより、岩全体の均質化が進み、化石と岩の境界面がなくなってゆきます。
化石と岩石は物性が異なる物どうしなので、もともと両者の間には「境界面(不連続面)」があります。そのため、岩を割る(=力を加える)と、歪みの力が境界面に集中して、そこから割れます(化石がうまく露出する)。しかし、境界面がなくなると、岩を割った時に、化石のある部分で岩が割れなくなります。日本にある古い地層は、力(=熱)を受けていることが多いので、地層を作っている岩石は、再結晶化が進んでいることが多いのです(第3回の「余談」参照)。
特に石灰岩に言えることなのですが、こうした再結晶化により、化石がうまく割り出せず、岩石中に三葉虫が含まれていたとしても、見落とされている可能性が高くなると考えられます。対処法としては、第3回の余談で述べたような「熱処理」がありますが、すべての岩を熱処理するわけにもいかないので、根本的解決にはなり得ません。
(4)小さな破片が多くて見つけづらい
これは特に、飛騨外縁帯や黒瀬川帯の石灰岩から産出する三葉虫に言えることです。これらの地域から見つかる三葉虫は小型の物が多い上に(もしくは大型の物があっても、大きいものほど壊されやすいので化石になるまでに破壊されている可能性が高い)、破片が大半なので、とても小さく、見つけるには熟練の目が必要です。
ここでは小さくてわかりにくい実例として、黒瀬川帯の横倉山と岩手県で採集した三葉虫を示します。
三葉虫の衰退と日本の三葉虫産出層
右図に時代ごとの三葉虫の「科」の数が示されているが、オルドビス紀以後の減少が明らかに分かる。また、特にデボン紀終了以降は明瞭に衰退していることが読み取れる。一方、日本で三葉虫を産出する可能性のある地層は分量的に石炭紀・ペルム紀が大半である。このことから、そもそも日本は三葉虫化石が見つかりにくい宿命にあることがわかる。
ここからは、三葉虫を採集する人間側の問題になります。
(3)三葉虫を含む地層の岩石の変質が進んでおり、化石を見つけにくい
例え三葉虫の化石が岩石に入っていたとしても、岩を割ったときに、化石のある部分で岩が割れてくれないと三葉虫に気づけません。
ここでいう「変質」とは、正確には「再結晶化作用」と言います。これは岩石を作っているもともとの鉱物の結晶が、熱や圧力を受けることによって、別の鉱物の結晶に変化してゆくことです。これにより、岩全体の均質化が進み、化石と岩の境界面がなくなってゆきます。
化石と岩石は物性が異なる物どうしなので、もともと両者の間には「境界面(不連続面)」があります。そのため、岩を割る(=力を加える)と、歪みの力が境界面に集中して、そこから割れます(化石がうまく露出する)。しかし、境界面がなくなると、岩を割った時に、化石のある部分で岩が割れなくなります。日本にある古い地層は、力(=熱)を受けていることが多いので、地層を作っている岩石は、再結晶化が進んでいることが多いのです(第3回の「余談」参照)。
特に石灰岩に言えることなのですが、こうした再結晶化により、化石がうまく割り出せず、岩石中に三葉虫が含まれていたとしても、見落とされている可能性が高くなると考えられます。対処法としては、第3回の余談で述べたような「熱処理」がありますが、すべての岩を熱処理するわけにもいかないので、根本的解決にはなり得ません。
(4)小さな破片が多くて見つけづらい
これは特に、飛騨外縁帯や黒瀬川帯の石灰岩から産出する三葉虫に言えることです。これらの地域から見つかる三葉虫は小型の物が多い上に(もしくは大型の物があっても、大きいものほど壊されやすいので化石になるまでに破壊されている可能性が高い)、破片が大半なので、とても小さく、見つけるには熟練の目が必要です。
ここでは小さくてわかりにくい実例として、黒瀬川帯の横倉山と岩手県で採集した三葉虫を示します。
三葉虫のグラベラ(頭鞍)破片
左:全体のイメージ復元図。赤色部が実際の化石に相当。
右:実物。復元図と位置を対照するため〇と△を付した。黄色線は5mm。
標本名:セラウロイデス属の一種
時代:古生代シルル紀
産地:高知県越知町横倉山
所蔵:筆者
採集年:1990年頃
三葉虫の頭部破片
左:全体のイメージ復元図。赤色部が実際の化石に相当。
右:実物。右眼の隆起がわかる。復元図と位置を対照するため〇と△を付した。黄色線は5mm。
標本名:ブマスタス属の一種
時代:古生代シルル紀
産地:高知県越知町横倉山
所蔵:筆者
採集年:1990年頃
三葉虫の右フリーチーク(遊離頬)
左:全体のイメージ復元図。赤色部が実際の化石に相当。
右:実物。赤線で輪郭を示す。復元図と位置を対照するため〇と△を付した。黄色線は5mm。
標本名:プロエタス科の仲間
時代:古生代シルル紀
産地:高知県越知町横倉山
所蔵:筆者
採集年:1990年頃
三葉虫の尾板破片
左:全体のイメージ復元図。赤色部が実際の化石に相当。
右:実物。赤線で輪郭を示す。黄色線は5mm。
標本名:スクテラム科の一種
時代:古生代シルル紀
産地:高知県越知町横倉山
所蔵:筆者
採集年:1990年頃
次に南部北上帯の岩手県日頃市町で採集した三葉虫を示します。
三葉虫の頭鞍破片
左:全体のイメージ復元図。赤色部が実際の化石に相当。
右:実物。赤線で輪郭を示す。黄色線は10mm。
標本名:フィリップシア属の一種
時代:古生代石炭紀
産地:岩手県日頃市町
所蔵:筆者
採集年:1980年代前半
いかがでしょうか?非常にわかりづらい、と言う印象を持ったのではないでしょうか。ここに示した標本の質が低い、と言うことも確かにありますが(もっと良い三葉虫を採集されている方はたくさんいます)、こうした標本が多数存在するのも事実です。従って、かけらから全体を想像できる「熟練の目」が必要となってくるわけです。
個人的な話ですが、近年では老眼が、私の三葉虫発見能力を著しく低下させてしまいました。昔は、ヘッドの重さが4.5kgある大ハンマーを振り回して石灰岩を割り、割った面に現れた大きさ1cmに満たない三葉虫でも、腰の高さくらいの距離からでも、見つける自信がありました。しかし、老眼になってしまった現在では、全く自信がありません。三葉虫探しは若い時がおすすめです。
さておき、諸外国でも三葉虫の完全体は必ずしもたくさん見つかる訳ではありませんが、破片ならば密集して見つかることはしばしばあります。しかし日本では一般的に、破片ですらあまり数は見つかりません。その原因は上に列挙した以外、私にはよくわかりません。ただ、当時の海底でも、三葉虫がたくさん暮らしている場所とそうでない場所、三葉虫の死体が水流などで集められやすい場所とそうでない場所があったはずです。そのように考えると、恐らく、日本には、たまたま三葉虫の化石が少ない場所の地層が残されているのだと思われます。そうなると、全ては運の問題だったということになりますが...。
とはいえ、例えば、横倉山とほぼ同じ時代(シルル紀)で、似たような堆積環境の地層が見られるスウェーデンのボーダ石灰岩からは、驚くほどの数の三葉虫(それもサイズ大きめ)の密集層がしばしば見られます。そうしたことを考えると、やはりその理由については、まだまだ考えることはありそうです。
イレヌス科三葉虫の尾板(尾部)の密集
左円枠:イレヌス科三葉虫のイメージ復元図。赤色部が尾板。
黄色線は4cm
時代:古生代シルル紀
産地:スウェーデン ボーダ石灰岩
所蔵:筆者。現地調査をした前田晴良先生(九州大学教授)よりいただいたもの
ボーダ石灰岩は、当時のサンゴ礁に生息していた多数の三葉虫が見つかることで世界的に有名な産地。
さて、「化石の王様」三葉虫について、第1回より6回に渡って見てきましたが、認識が改まったでしょうか?三葉虫のことを好きになったでしょうか?
当館でも展示数は決して多くありませんが、ご興味が湧きましたら、ぜひじっくりと標本を見てください。また、この連載を読んで三葉虫を好きになってしまった方は、お気軽に私にお声がけください。もしかしたらマニアックな三葉虫標本(=「地味でわかりにくい」と同義語)をお見せする機会もあるかも知れません。三葉虫については、まだまだ書きたいことがあるのですが、キリがないので、今回で一旦終了といたします。そのうちまた取り上げたいと考えています。
(三葉虫の項終わり)
余 談:「ここは三葉虫だらけじゃないかっ!!」
本文に書いたように、国内で三葉虫を採集するのは容易ではありません。ただし、これは主に40年近く前に三葉虫採集をしていた私の個人的な感想で、ネットを覗いていると、良い三葉虫をたくさん採集されている方も少なくないようですし、新しい産地も見つかっているようではあります。とはいえ、私にとって三葉虫採集には、これまでも苦労したし、あまり採集できなかったなあ、と言う強い個人的な思いがあります。
そうしたことから、三葉虫に対する怨念というか、一度でいいから、たくさん見つけてみたい!、と言う思いが心の中でずっと燻り続けていました。しかし、その思いを実現するのに国内では容易ではない、と言うことで、スウェーデンのゴトランド島に行って見ることにしました。
ゴトランド島はスウェーデン本土の東、バルト海に浮かぶ島で、全島シルル紀層でできている、と言っても過言では無いくらいシルル紀層が広く分布しています。それもそのはず、現在では「シルル紀」と言う地質時代名称に変更されていますが、以前には「ゴトランド紀」の名称が使用されていた、と言う歴史的経緯もあります。
この島は現在では寒い地域にありますが、シルル紀には赤道近くの熱帯に位置し、多くのサンゴ礁生物が栄えていました。それが現在多数の化石として発見されています。
日本ではシルル紀の化石を採集するのは大変な困難が伴うため、たくさんの化石が見つかる同島は、国内のシルル紀化石マニアにとって、一度は訪れてみたい永遠の憧れの地ともなっています。もっとも、日本にシルル紀化石マニアが200人もいるかどうか全く自信がありませんが...
ヴィズビー
ゴトランド島の最大都市であるヴィズビー(Visby)は、中世のハンザ同盟に属していた街で、世界遺産にもなっています。また、有名アニメ「魔女の宅急便」で描かれた街のモデルとしても知られています。
島内にはたくさんの化石産地がありますが、大半は海岸沿いにあり、一部は内陸の石灰岩採石場跡に分布しています。島は全体がなだらかな地形で、地表は土に覆われているので、内陸部には自然にできた崖がほとんどありません。ですので、内陸部では、人工的に作られた崖、つまり採石場のような場所でないと化石は見つけられません。
その時の訪問では、色々な、化石とその産状を見るために、島の各地を回りました。そうした場所の一つに島の北部にあるヴァレビケンと言う集落の近くの昔の採石場跡がありました。「跡」ですので、現在は稼働していません。車から降り、少し歩いて森を抜けると、採石場があります。
採石場の中央部、採石のために、かつては地表から深く掘り込んでいた場所には水が溜まって、綺麗な池となっていました。ここは北欧だと思うと、何だか池まで美しく見えてきます。採石場が稼働していたのは1920年代までだそうです。なんと約100年前です!
採石場は空から見ると楕円形をしており、円の外周にあたる採石場の「へり」となっている崖の周辺で化石を探します。人物の右側の崖が「へり」になります。
本文に書いたように、国内で三葉虫を採集するのは容易ではありません。ただし、これは主に40年近く前に三葉虫採集をしていた私の個人的な感想で、ネットを覗いていると、良い三葉虫をたくさん採集されている方も少なくないようですし、新しい産地も見つかっているようではあります。とはいえ、私にとって三葉虫採集には、これまでも苦労したし、あまり採集できなかったなあ、と言う強い個人的な思いがあります。
そうしたことから、三葉虫に対する怨念というか、一度でいいから、たくさん見つけてみたい!、と言う思いが心の中でずっと燻り続けていました。しかし、その思いを実現するのに国内では容易ではない、と言うことで、スウェーデンのゴトランド島に行って見ることにしました。
ゴトランド島はスウェーデン本土の東、バルト海に浮かぶ島で、全島シルル紀層でできている、と言っても過言では無いくらいシルル紀層が広く分布しています。それもそのはず、現在では「シルル紀」と言う地質時代名称に変更されていますが、以前には「ゴトランド紀」の名称が使用されていた、と言う歴史的経緯もあります。
この島は現在では寒い地域にありますが、シルル紀には赤道近くの熱帯に位置し、多くのサンゴ礁生物が栄えていました。それが現在多数の化石として発見されています。
日本ではシルル紀の化石を採集するのは大変な困難が伴うため、たくさんの化石が見つかる同島は、国内のシルル紀化石マニアにとって、一度は訪れてみたい永遠の憧れの地ともなっています。もっとも、日本にシルル紀化石マニアが200人もいるかどうか全く自信がありませんが...
ヴィズビー
ゴトランド島の最大都市であるヴィズビー(Visby)は、中世のハンザ同盟に属していた街で、世界遺産にもなっています。また、有名アニメ「魔女の宅急便」で描かれた街のモデルとしても知られています。
島内にはたくさんの化石産地がありますが、大半は海岸沿いにあり、一部は内陸の石灰岩採石場跡に分布しています。島は全体がなだらかな地形で、地表は土に覆われているので、内陸部には自然にできた崖がほとんどありません。ですので、内陸部では、人工的に作られた崖、つまり採石場のような場所でないと化石は見つけられません。
その時の訪問では、色々な、化石とその産状を見るために、島の各地を回りました。そうした場所の一つに島の北部にあるヴァレビケンと言う集落の近くの昔の採石場跡がありました。「跡」ですので、現在は稼働していません。車から降り、少し歩いて森を抜けると、採石場があります。
採石場の中央部、採石のために、かつては地表から深く掘り込んでいた場所には水が溜まって、綺麗な池となっていました。ここは北欧だと思うと、何だか池まで美しく見えてきます。採石場が稼働していたのは1920年代までだそうです。なんと約100年前です!
採石場は空から見ると楕円形をしており、円の外周にあたる採石場の「へり」となっている崖の周辺で化石を探します。人物の右側の崖が「へり」になります。
へりでは層状の地層が見えます。ここの地層は「マール」という泥質の石灰岩(泥成分を多く含んだやや不純な石灰岩)と、ごく薄い泥岩層からなり、それらが交互に繰り返すことにより、地層が層状に見えています。
ちなみに石灰岩は成分的に炭酸カルシウムを多く含み、主にサンゴ礁周辺で形成される岩石なので、石灰岩があるという事は、そこがかつてサンゴ礁ができるような熱帯であったことを示します。石灰岩は純粋なほど白っぽく、マールのように泥成分が混じると、泥の分量に従って灰色から黒色近い色になります。
ここの地層は、どの部分でも化石を含んでいるわけではなく、特定の層に化石が集中しています。崖そのものを崩すことは禁止されているので、崖下に落下した転石中から化石を探します。
ちなみに石灰岩は成分的に炭酸カルシウムを多く含み、主にサンゴ礁周辺で形成される岩石なので、石灰岩があるという事は、そこがかつてサンゴ礁ができるような熱帯であったことを示します。石灰岩は純粋なほど白っぽく、マールのように泥成分が混じると、泥の分量に従って灰色から黒色近い色になります。
ここの地層は、どの部分でも化石を含んでいるわけではなく、特定の層に化石が集中しています。崖そのものを崩すことは禁止されているので、崖下に落下した転石中から化石を探します。
転石の拡大です。写真ではどんな化石が含まれているのか、よく分からないと思いますが、実際には、たくさんの化石が写っています。ここでは腕足類、三葉虫、直角石、ウミユリなど大量の化石片を容易に見つけることができます。
転石の表面には風化によってたくさんの化石が浮き出しています。岩の断面を見てもたくさんの化石の断面を見ることができます。ただし、岩を割っても化石は見つけられません。岩と化石の剥離が大変悪く、全て壊れてしまうからです。従って、丹念に転石の表面を観察して、良い化石が入っている岩を探すことになります。化石そのものは全く珍しくないので、ちょうど良い感じで化石が浮き出している岩を選んで採集します。とはいえ過去にたくさんの人が来て採集しているので、本当に良い感じの岩はそれほど多くはありません。
それでも、探していると、全て破片ではあるけれども、三葉虫があるわあるわ。発見するたびに頭の中で個数を数えていた三葉虫カウンターが高速で回転を始め、あっという間に発見数がわからなくなりました。
「ここは三葉虫だらけじゃないか!」
思い返せば、それまで40年余りの化石人生で、私が野外で認識した国産三葉虫の延べ数は、多分せいぜい200個くらいかと思います。その数をここではわずか10分余りで凌駕してしまいました。これまで三葉虫に苦労していたのはなんだったのだろう...。と思ってしまいました。
そうした三葉虫の破片がたくさん入った岩の写真を下に示します。
三葉虫破片を大量に含んだ岩
上図の拡大
所蔵:筆者
あまりにたくさん含まれているので、どこに何が含まれているか、個々には示さないが、少なくとも四種類以上の破片が含まれていると考えられる。体の部位的には頭から尾板まで全て含まれている。この岩の中で特に目立つ右下の破片の拡大を次の写真に示す。
転石の表面には風化によってたくさんの化石が浮き出しています。岩の断面を見てもたくさんの化石の断面を見ることができます。ただし、岩を割っても化石は見つけられません。岩と化石の剥離が大変悪く、全て壊れてしまうからです。従って、丹念に転石の表面を観察して、良い化石が入っている岩を探すことになります。化石そのものは全く珍しくないので、ちょうど良い感じで化石が浮き出している岩を選んで採集します。とはいえ過去にたくさんの人が来て採集しているので、本当に良い感じの岩はそれほど多くはありません。
それでも、探していると、全て破片ではあるけれども、三葉虫があるわあるわ。発見するたびに頭の中で個数を数えていた三葉虫カウンターが高速で回転を始め、あっという間に発見数がわからなくなりました。
「ここは三葉虫だらけじゃないか!」
思い返せば、それまで40年余りの化石人生で、私が野外で認識した国産三葉虫の延べ数は、多分せいぜい200個くらいかと思います。その数をここではわずか10分余りで凌駕してしまいました。これまで三葉虫に苦労していたのはなんだったのだろう...。と思ってしまいました。
そうした三葉虫の破片がたくさん入った岩の写真を下に示します。
三葉虫破片を大量に含んだ岩
上図の拡大
所蔵:筆者
あまりにたくさん含まれているので、どこに何が含まれているか、個々には示さないが、少なくとも四種類以上の破片が含まれていると考えられる。体の部位的には頭から尾板まで全て含まれている。この岩の中で特に目立つ右下の破片の拡大を次の写真に示す。
右下破片の拡大(上に示した岩の全体写真から角度を変えて示している)
拡大
左:ダルマニテス類の頭部。頭部をひっくり返して裏側から見ている状態であることに注意。右眼(向かって左側)の複眼構造がよく観察できる。
右:化石の部位をイメージ復元図上の赤色部で示す。標本はひっくり返っているので復元図とは左右が逆に見える。標本は頭部の幅が4cm程度なので、全体を復元すると、おおよそ全長10cm余りの比較的大きな個体となる。
おまけに、高知県横倉山ではレアな、まだ私が一度も採集したことのない、憧れの三葉虫エンクリヌルスが普通に見つかるではありませんか!エンクリヌルスはシルル紀の代表的な三葉虫の一つであり、頭部にイボイボがあり、それがかっこいいのです。
エンクリヌルス類の化石(上)とイメージ復元図(下)
A:エンクリヌルス類の頭鞍部(化石の高さ6mm)。イボイボ(顆粒状構造)がそそる。
下図でAと示された赤色部が部位に相当する。赤丸は上図と下図の対称位置を示す。
B:エンクリヌルス類の尾板(化石の高さ15mm)。中央部は破損によって殻が剥離している。
下図でBと示された赤色部が部位に相当する。黄色の四角は上図と下図の対象位置を示す。
所蔵:両標本とも筆者
とにかく、その数には圧倒されてしまいました。惜しむらくは、ここでは全ての標本が破片化していることです。破片化の程度も激しく、バラバラになった部品がさらに破片化していることが普通です。上に示したようなダルマニテス類のように、頭部全体が残っていることはまれです。
この産地について解説された資料を読むと、化石を含む層は相当に水深の浅い海底で堆積した地層とされ、化石が密集している部分は波の穏やかな水深1メートルにも満たない海底だったとされています。恐らくは時折やってくる嵐によって、三葉虫を含む生物の遺骸が激しく流され、ぶつかり合うことによって、どんどん破片化していったと考えられます。
この化石産地に限らず、化石の密集層の形成は嵐による強い水流が関与していることがしばしばあります。イメージとしては、落ち葉が強い風によって吹き溜まるような感じです。
ゴトランド島ではこの産地に限らず、島内各地で三葉虫を普通に見ることができます。また、それに限らず、サンゴの化石なども驚くほど豊富に見つかり、化石の状態も、4億年前の物とは思えないくらい新鮮です。ゴトランド島の化石については、また機会を改めてご紹介したいと思っています。
(館長 加納 学)
B:エンクリヌルス類の尾板(化石の高さ15mm)。中央部は破損によって殻が剥離している。
下図でBと示された赤色部が部位に相当する。黄色の四角は上図と下図の対象位置を示す。
所蔵:両標本とも筆者
とにかく、その数には圧倒されてしまいました。惜しむらくは、ここでは全ての標本が破片化していることです。破片化の程度も激しく、バラバラになった部品がさらに破片化していることが普通です。上に示したようなダルマニテス類のように、頭部全体が残っていることはまれです。
この産地について解説された資料を読むと、化石を含む層は相当に水深の浅い海底で堆積した地層とされ、化石が密集している部分は波の穏やかな水深1メートルにも満たない海底だったとされています。恐らくは時折やってくる嵐によって、三葉虫を含む生物の遺骸が激しく流され、ぶつかり合うことによって、どんどん破片化していったと考えられます。
この化石産地に限らず、化石の密集層の形成は嵐による強い水流が関与していることがしばしばあります。イメージとしては、落ち葉が強い風によって吹き溜まるような感じです。
ゴトランド島ではこの産地に限らず、島内各地で三葉虫を普通に見ることができます。また、それに限らず、サンゴの化石なども驚くほど豊富に見つかり、化石の状態も、4億年前の物とは思えないくらい新鮮です。ゴトランド島の化石については、また機会を改めてご紹介したいと思っています。
(館長 加納 学)